会いたくない人に
こうして、思いのほか簡単に営業許可をもらうことができた。帝国宰相は、「これから大切な用事がある」ということなので、わたしはくどいほど丁寧にお礼を言って、宰相と別れた。
「マスター、うまくいってよかったね」
「うん。こんなにも、すんなりいくとは思わなかったわ。でも、今日の夜あたり、突然、帝国宰相が解任されちゃったりして……」
「いくらなんでも、それはないと思うよ。解任にもそれなりの手続きが……いや、そうでもないか。つまり、絶対にないとは断言できないということで……」
政変にせよ休廷騒動にせよ、突然の解任劇は付きものだから、可能性としては有り得る話だ。こちらとしては、営業許可書を手にするまで帝国宰相がその地位に留まっているよう、祈るしかないだろう。
「ところでマスター、さっき『帝国宰相の力になる』とか…… あんなこと言って大丈夫?」
「大丈夫よ。営業許可書を受け取ったら、目的達成。あとは国に戻るだけよ」
「へえっ? あの…… 帝国宰相から、いろいろと頼みごとをされるのではないかと思うんだけど、その時はどうするの?」
「頼まれるのは構わないけど、適当にすっぽかして帰ればいいわ。営業許可書さえもらえれば、あの爺さんがどうなろうと、わたしの知ったことじゃない」
「いくらなんでも、それは……」
プチドラは、呆れ返ったように口を開けた。
しばらく廊下を歩いていると、大男と小男の二人組みがドタバタと、こちらに駆けてくるのが見えた。
「お急ぎ下さい! 予定の時刻は過ぎていますぞ!!」
「まあ、そう慌てるな。予定の時刻より早ければ、相手は準備ができていないから大変だろう。しかし、遅れる分には、全然、問題ないじゃないか」
「子供みたいなことを言わないで下さい。そこは常識というものが……」
何を急いでいるのか知らないが、その二人組みは、ツンドラ候とニューバーグ男爵。なるべくなら会いたくなかったのだけれど……
わたしは物陰に身を隠そうとしたが、時すでに遅く、
「おお~! ウェルシー伯ではないか!!」
ツンドラ候は大声を上げ、わたしの前で急停止した。
仕方がないので、わたしはニッコリと愛想笑いを浮かべ、
「ご無沙汰しておりました、ツンドラ候。ご機嫌はいかがでしょうか?」
「いや~、このところ、いろいろとわけの分からん会合やら何やら…… 自慢じゃないが、俺様には、何がどうなっているのか、サッパリ理解できんのだ」
ツンドラ侯は豪快に笑う。
「でも、それは……」
いけない。うっかりと「あんたが単細胞だから」と言ってしまうところだった。




