開業のため必要なこと
エレンが気を利かせて応接室を出ると、デスマッチは言った。
「この際、まどろっこしい挨拶は、なしにしよう。この前から懸案になっていたことだが……」
「懸案……というと、もしかして?」
「捕虜の交換の話じゃないぞ。総合商社の話の検討が終わったので、結論を伝えにきたのだ」
捕虜の話って…… 口に出さなければ、多分、思い出さなかっただろう。デスマッチは、結構、律義な性格かもしれない。
デスマッチは話を続けた。
「社内で検討したところ、我々としては、その話には乗っても良いという結論に至った。1ヶ月もあれば、人員の確保、支店網の整備など、こちらとして可能な準備は整うだろう。ただ、問題は、この前も言ったように……」
「帝国政府の営業許可のことかしら?」
「そうだ。他のことならなんとかなるが、こればかりは、平民の我々では、どうにもならん。言い出したのはそちらだ。当然、成算はあるのだろうな」
デスマッチは鋭い眼光でわたしをにらみつけた。そもそも、素人的に、なんとなく思いついただけのこと。成算など、あろうはずがない。でも、こちらから言い出したからには……
「営業許可は、わたしがなんとかするわ。あなたたちは開業準備を始めて頂戴」
「分かった。1ヵ月後の開業を目標に、準備に取り掛かることにしよう」
デスマッチは、わたしと固い握手を交わし、何やら意味ありげな薄笑いを浮かべながら、帰っていった。
プチドラは、心配そうにわたしを見上げ、
「マスター、あんな約束をして、大丈夫?」
「大丈夫じゃないけど、なんとかしないと…… デスマッチのことだから、あの場で『許可はもらえない、無理』なんて言うと、『今まで開業準備や調査にかけた金が無駄になった。賠償しろ』と言い出したに決まってるわ」
「でも、一旦『できる』と言ってから、後になって『やっぱりダメだった。ごめんなさい』だと、その方が責任は重くなると思うけど……」
「だから、何がなんでも営業許可をもらうのよ」
「もらえるかな。かなり分の悪い勝負のような気がするけど…」
「もし、もらえなければ…… そうね、その時は、偽造した営業許可証をデスマッチに渡し、偽造が発覚した場合には、こちらは何も知らなかった、つまり、デスマッチに騙されたことにする」
「そんな無茶な……」
「だから、そうならないように、どんな手を使ってでも営業許可をもらうのよ。とにかく、帝都に行きましょう。」
とは言ってみたものの…… 冷静に考えてみると、営業許可をもらえる見込みは、ほとんどない。どうしたものか……




