勝つには勝ったが
隻眼の黒龍とマリアが戻り、敵の後方から攻撃を加えたことで、敵軍は大いに乱れ、ほとんどパニックと言ってよい状態となった。猟犬隊員は大いに奮い立ち、今まで我慢して耐えていた鬱憤を晴らすかのように、各々のエモノを振り回し、敵軍の只中に斬り込んでいく。
司令官はタオルで額の汗をぬぐいながら、
「これで我方の勝ちですな。いや~、一時はどうなることかと思いましたが、いや~、よかった、よかった」
呑気というかマイペースというか…… でも、これくらいの性格の方が長生きするかもしれない。
戦況は先ほどから一変していた。混沌の軍勢は散々に打ち破られ、今や軍隊の体をなしていない。バラバラになって、命からがら逃げていくだけ。それを猟犬隊が追いかけ、斬りつけ、突き刺し、etc。
そして、大勢が決した頃になって、ようやくメアリーが先導する魔法戦隊が戻ってきた。
戦いは終わった。混沌の軍勢は壊滅、軍の再建にはしばらく時間がかかるだろう。
「申し訳ありません。戻るまでに時間がかかりまして」
今回は見せ場がなかったメアリーが言った。でも、魔法戦隊が一緒だから仕方ない。メアリーには、一日も早く、魔法戦隊を実戦で使えるように鍛えてもらおう。
「ちょっぴり妙な感じはしていましたが、まさか敵陣に誰もいないとは思いませんでした」
と、マリア。敵陣に近づくにつれ、「何やらおかしい」感じが強まっていったらしい。隻眼の黒龍が「とにかく、行ってみないと分からない」言うので進んでみたところ、今回はそれが裏目に出たとのこと。でも、ともかくも混沌の軍勢を追い払うことができたのだ。「終わりよければすべてよし」としよう。
それよりも不思議なのは、どうして混沌の軍勢が夜明けと同時に攻撃してきたのかということ。たまたまそうなっただけなのか、敵に知恵者がいて、こちらの作戦を読んで、その裏をかいたのか、味方の中に裏切者がいて、作戦を敵に漏らしたのか……
仮に裏切者がいるとしても、混沌の勢力に情報を漏らすような、この世界で言う「人間性を疑われる」ようなことはしないだろう。たまたまそうなったということも、あり得くはないが、御都合主義の極みみたいな気がする。そうすると、敵に知恵者が、例えば、口に出すのもはばかられるような、これ以上醜いものが考えられないアイツが裏で暗躍しているとか。何事につけても人間離れしている、あのヤローのことだから、理屈は抜きにして、一番可能性は高そうな感じもする。
「マスター、どうしたの? さっきから黙りこくって」
子犬サイズに戻ったプチドラが言った。
「なんでもない。ちょっと気になることがあってね」
もしも本当にあのヤロウが生きていて、今回の一件に絡んでいるとしたら、これからも、なんやかやとちょっかいを出してくるかもしれない。面倒なことにならなければいいが……




