形勢逆転
わたしは作業着(しつこいようだけど、いつものメイド服)に着替え、伝説のエルブンボウを持って、本営に向かった。本営には、ひっきりなしに伝令係が出たり入ったりしている。いかにも戦争中といった雰囲気。わたしが本営に入ると、司令官は椅子を勧め、
「お待ちしておりました。さあ、ここにお掛けになってください」
「ありがとう」
腰を下ろすと、朝食のパンと飲み物が運ばれた。わたしがパンをかじっていると、司令官は神妙な顔つきで、
「戦況は一進一退です。ただ、どちらかといえば、こちらがやや押され気味かと……」
奇襲をかけて楽勝のつもりが、反対にこちらが奇襲を受けることになったのだから、押され気味なのは当然の成り行きだろう。一気に打ち破られなかっただけでも良しとしなければ。
「しょうがないわね。わたしも最前線に出るわ」
わたしは伝説のエルブンボウを持って立ち上がった。
司令官は、それほど驚いた風もなく、
「良い考えだと思いますが、危険ですよ」
「危険でも、このくらいの演出は必要でしょ。押され気味なら、なおさらのことよ」
わたしは司令官に一番の激戦地に案内してもらった。木の柵が張り巡らされ、その向こうでは、猟犬隊員とオーク、ゴブリン、ホブゴブリンが血みどろの殺し合いを続けている。どうやら乱戦のようだ。これでは弓は使えない。味方に当たってしまう。
「う~ん、困ったな……」
こんな場合、アーチャー(射手)では役に立たないし、わたしにはウォーリアー(武闘派の戦士)としての技量は無きに等しい。それでも、司令官は大声をあげ、
「ヤロウども! 今、ここに、カトリーナ様がおいでになっている!! ブザマな戦い方をするヤツは、バラバラにして、ブタのエサだぁ!!!」
そして、どこから持ってきたのか、わたしにレイピア(細身の剣)を握らせ、
「ここはひとつ、ビシッと決めちゃってください。適当に大声を出せば、味方は奮い立ちますよ。」
なんとも安直な感もしないではないが、わたしはレイピアを高くさし上げ、大きく息を吸い込み、
「今はただ、よく守れ。あと10分くらいすれば、隻眼の黒龍を中心とした航空戦隊が戻ってくるはず。その時が本当の勝負。打って出て、一気に敵を殲滅する」
すると、呼応するように、味方から元気よく「オー」という声が上がった。信じられないことだが、うまくいったらしい。猟犬隊員の頭の中は単純にできてるのね……
それから5分ほど後(兵士たちの前で適当に宣言した時間より早く)、隻眼の黒龍とマリアが戻ってきた。メアリーは魔法戦隊を連れているので、少々時間がかかるようだ。ともあれ、これで勝負はついた。




