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ザ☆旅行記Ⅵ ウェルシーにおける動乱記  作者: 小宮登志子
第1章 騎士会の要求書
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ただいま

「アイタタタ……」

「ああ、これは、とんだご無礼をいたしました。お許しを」

 鎧武者(ほぼ完全武装の騎士、ただし兜をかぶっていない)は手を差し出した。見たところ、髪に白いものが混じり始めた中年のオヤジのようだ。

 尻餅のせいで気分を害していたわたしは、その申し出を辞退して一人で起き上がり、

「見かけない顔ね。あんた、何者???」

「ははは…… 私をご存知ないとは、我が家名も落ちぶれたものですな」

 鎧武者は、わたしに深々と頭を下げ、立ち去った。敬意を払っている格好だけど、内心では軽く見られているみたいで、なんとなく不愉快。慇懃無礼とは、このオヤジのことを言うのだろう。

 やがて、再び応接室のドアが開く。出てきたのは、難しい顔をしたエレンと両手に書類を抱えたポット大臣だった。

「ただいま。たった今、戻ったよ」

 すると、二人ともきょとんとして、言わばフリーズ状態。事態をよく飲み込めていないようだ。

 そのままの状態で、少し間をおいてから、

「……あっ!? ああっ、カトリーナさん! ごめんなさい、気がつかなくて」

 エレンはあたふたとわたしのもとに駆け寄った。その際、持っていた書類が廊下に散らばってしまったが、相変わらず、エレンはリアクションが大きい。


 わたしはとりあえず応接室に入ってソファに座り、机の上にエレンへのおみやげを積み上げた。歴史書を中心として、難解な専門書が10冊程度。帝都大図書館で書き写したものだ。

「ごめんね、エレン。向こうではいろいろとあって、今回はこれだけなの」

「ううん、これだけあれば十分よ。ありがとう。でも、次にまた帝都に行く機会があれば、お願いね」

 エレンはわたしに紅茶を注いで言った。エレンには、今後も引き続き、便利に使われるようだ。

「お戻りになるなら、事前にお知らせいただければ、お迎えに参上しましたのに」

 ポット大臣は決まりが悪そうに、薄くなった頭に手をやった。

「そうしようかとも思ったんだけどね…… 帝都から使いを出しても、途中で追い抜いていきそうだから。この世界でドラゴンの飛行速度に及ぶものはないでしょ」

 すると、プチドラはちょっぴり気分をよくしたのか、机の上に立ち上がり、小さな胸を張った。

 わたしは紅茶を一口飲み、ポット大臣を見上げ、

「ところで、さっき、応接室から出てきたオヤジ…… あの鎧武者は何者なの?」

「ええ、あの人はですね……」

 ポット大臣は言葉を止めた。口をパクパクさせてはいるが、声が出ない。なんだか言いにくそうだ。都合の悪い話は報告しないのが本能的な役人の習性だから、あまり良い話ではないのだろう。

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