前線の司令官
館を出発したのは朝だった。そして、今、日はかなり西に傾いている。
しかし(事前の予想に反して)……
「みんな、がんばって。もう少し飛んでから、降りられるところを探しましょう」
メアリーは魔法戦隊を励ましている。隻眼の黒龍なら既に現地に到着している時刻だけど、まだ途中。魔法戦隊を連れていると、スピードが出ない。第一線で使えるまで、まだまだ時間がかかりそうだ。
こういうわけで、宝石産出地帯に到着したのは出発してから2日目の午後だった。ともあれ、ともかくも目的地に到着すると、
「わぁ~~い!!」
「追いかけっこだぁ~!!」
魔法戦隊は地上に降り、無邪気にはしゃぎ回っている。ここに来るのは初めてではないと思うけど、まだまだ子供だから。
一方、メアリーは、引率の先生のごとく、
「気をつけて。山道を走り回っては、危ないわ! ああ、そこは!」
大きな声を上げたり、子供たちを追いかけたり、いろいろと苦労が絶えないようだ。
子供たちの世話はメアリーに任せ、わたしはプチドラを抱いてマリアとともに本営に向かった。その途中、
「先ほどから、敵対的な魔力を感じます。敵方に強力な魔法使いがついているのかも。」
マリアがわたしの耳元でささやいた。もともと目が見えないマリアだけど、感知魔法は素晴らしく強力。そのマリアの言うことだから、間違いないだろう。敵方にも魔法使いがいるとなると、思ったほど簡単に事は運ばないかもしれない。
わたしは本営のテントを見つけてその中に入り、
「司令官は誰? 戦況はどうなってるの?」
すると、テントの中にいた猟犬隊員たちは、「何者か」といったふうに、一斉にわたしの方を向いた。しかし、ただ一人、一番奥で(一番エライ人が座る席に)腰掛けている男だけは、
「ああ、あなたは!」
その男は大慌てで立ち上がり、自分の席の隣に場所を空け、部下に椅子を2脚持ってこさせた。
「前もって連絡をいただければ準備万端整えておりましたのに、ここは有り合わせのもので、申し訳ございません。私がこの度の戦の司令官でございます。え~っと、早速ですが、今回の概況説明でよろしいでしょうか」
見覚えのある顔だと思ったら、この人、元は宝石産出地帯の収容所長で、前回は、異常に士気が高かった混沌の勢力にボロ負けしたという人。名前は……なんだっけ。そういえば、まだ聞いてなかったような気がする。
それほど重要ではないわたしの疑問をよそに、司令官の説明が始まっていた。今回は、混沌の領域のオークとゴブリンとホブゴブリンの連合軍が極めてオーソドックスに(具体的にはよく分からない表現だが)攻め寄せてきたらしい。兵力はほぼ互角で、現在のところ本格的な戦闘はなく、お互いに陣を張って対峙しているとのこと。