表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザ☆旅行記Ⅵ ウェルシーにおける動乱記  作者: 小宮登志子
第2章 商談と団体交渉
23/96

ヒューバートという男

 数日後、多くの猟犬隊員に周囲を固められ、前騎士団長の嫡男、ヒューバート・ジョン・ピーター・ゴールドマンを乗せた檻車が、館の中庭に到着した。

 ドーンは得意げに言う。

「カトリーナ様、仰せのとおりにゴールドマン前騎士団長の息子を連れてまいりました。いやあ、ここまで来るのは、結構、大変だったのですよ」

「ボコボコにするのは構わないと言ったけど…… いくらなんでも檻車はひどいんじゃない?」

「いえ、こうでもしないと逃げられるんですよ。こいつ、ひょっとすると、おかしいんじゃないですかね」

 ドーンは汗を飛ばしながら苦労話を始めた。最初は、一応、話し合いで穏便に済まそうとヒューバートの領地を訪ねたが、騎士団長就任の話を持ち出した途端に逃げられ、捕まえるまで大変だったとのこと。

 わたしは檻車の前に立ち、ヒューバートの顔をのぞき込んだ。髪の毛はモジャモジャ、眉間にしわを寄せ、唇を小刻みに震わせ、目を大きく見開いて、わたしを見上げている。年はわたしよりも少し上くらいのはずだけど、年齢以上に老けて見える。


「カトリーナ様、辞令等の用意ができましたので、お持ちしました」

 その時、ポット大臣が書類を抱えてやって来た。

「ああ、丁度よかったわ。ポット大臣、これは一体、どういうこと?」

「えっ? あの、いきなり『どういうこと』とおっしゃられましても…… どのような脈絡で?」

「ゴールドマン前騎士団長の息子のことよ。こいつ、一体、なんなの?」

「ヒューバート様のことでございましたか。実は、ヒューバート様は、人見知りの激しい方でございまして、さらに言えばですね……、その……、非常に言いにくいのですが、ぶっちゃけ人間嫌いで、『世間を離れてどこかに引きこもりたい』と常々おっしゃっていました。父上が亡くなられた後は、さらにひどくなったようで……」

「なんとまあ…… でも、カレの事情なんか、わたしの知ったことじゃないわ」

 わたしはポット大臣から辞令を取り上げ、鉄格子の隙間から檻車の中に投げ入れた。

「ヒューバート・ジョン・ピーター・ゴールドマン、あなたを騎士団長に任命します。拒むことは許されないから、そのつもりでね」

 しかし、ヒューバートはプイと顔を横に向けるだけで、辞令を拾おうともしない。もし、この男が野心的な人物で、「騎士団を牛耳ってやる」くらいの気概があれば、騎士会への対抗勢力を作ることもできただろう。でも、このヒューバートという男、見たところ、全然使えそうにない。いや、使える使えないといった話ではなく、そもそも、社会生活を営む上での基本的な能力が欠如しているのではないか。前向きに考えるとすれば、ヒューバートを傀儡として、わたしが騎士団に命令を下せばよいことになるが……

 この前のポット大臣の態度が少しおかしかったのは、このことを知っていたからだろう。その時に言ってくれればよかったのに。命がけの諫言はしない主義だろうか。確かに事務屋としては優秀だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ