帝都に駐在武官を
わたしは執務室にドーンを呼んだ。用件は言うまでもなく、
「ゴールドマン騎士団長の息子を連れてきてほしいの。『嫌だ』と言っても、無理矢理引きずってくるのよ。ボコボコにするくらいなら構わないけど、やりすぎて殺しちゃうのはダメだからね」
「分かりました。お任せ下さい」
ドーンは力強く、拳で胸をドンとたたくと、手下を引き連れ、喜び勇んで出発した。元々、町の暴力的非合法活動家(早い話がチンピラ)だけあって、この種の暴力行為はお家芸のようだ。
さて、ドーンが戻ってくるまで、数日程度かかりそうだ。騎士会への嫌がらせはこの程度にして、そろそろ真面目に国政に取り組むことにしよう。
でも、具体的に、何をなすべきか…… わたしは執務室の椅子に背中からもたれかかり、なんとなく天井を見上げた。
すると、プチドラも釣られたように天井を見上げ、
「マスター、ボーっとして、どうしたの?」
「いえ、別に…… 最初に天井を見上げたことは、まったく意味がないのよ。たまたま視線が天井を向いただけ。そうしたら、ふと、考えが浮かんできてね。つまり、天井に開いた小さな穴から、間者がわたしの動静を観察してたりするのかな、みたいな……」
「そんな、まさか…… マンガや探偵小説じゃあるまいし」
間者の話は思わず口をついて出た話だけど、本当に、マンガ的にプロフェッショナルな間諜組織があれば便利だろう。猟犬隊にそこまで期待するのは無理だけど、もし、ガイウスやクラウディアの一党が味方になってくれるのであれば、そのようなことも可能かと思う。
「そういえば……」
わたしは、ふと思い立って、立ち上がった。
「どうしたの、マスター? 前からもそうだったけど、このところは特に、思いつきで行動することが増えたような気がするんだけど……」
「えっ? ええ、そうね、言われてみれば、確かに。でも、何事も結果オーライよ。で、今回も例によって思いつきなんだけど……」
今回の思いつきは、間者からの連想で、せっかく帝都に屋敷をもらったのだから、その屋敷を帝都における情報収集の拠点としようということ。こう書くとものものしいけど、屋敷に駐在武官を何人か交替で派遣し、定期的に報告書を提出させようという、今まで実施してなかったのが不思議なくらい、ありきたりのもの。駐在武官は親衛隊から選任することにしよう。いくらなんでも猟犬隊ではガラが悪すぎるだろう。
カトリーナ学院に出向き、メアリーにその旨を話すと、
「分かりました。すぐに人選に取り掛かります」
すぐさま、若くて有能な親衛隊員が数名選抜され、帝都に向けて旅立っていった。




