いきなり鎧武者
帝都を出て数日が過ぎた。天候にも気候にも恵まれ、今回は快適な空の旅が続いている。
国に戻るのは久しぶりで、懐かしいような気がする。エレン、メアリー、マリアは元気だろうか。ドーンやポット大臣は……あの連中なら、地下牢で2、3ヶ月、ほったらかしにしておいても、くたばりはしないだろう。
なんだか肩が痛くなってきた。風呂敷包みの中には、エレンから頼まれたいわゆる「学術的な書物(の写し)」が一杯に詰まっている。ウソと分かっている歴史書も混じっているが、それはそれで、有益な資料にはなるだろう。
「マスター、いいの? ツンドラ候には何も言わずに来たけど……」
隻眼の黒龍(つまり、プチドラ)は言った。そういえば、ツンドラ候のことはすっかり忘れていて、今、言われてみて初めて気がついた。とはいえ、今更帝都に戻る気は、プチドラにもないだろう。
「よくないとは思うけど、ツンドラ候は『単細胞』だから、構わないわ」
もし怒ってるとしても、次に会ったときに(本当に最後の手段だけど)一緒にゲテモン屋に行けば、機嫌を直すだろう。
そして、帝都を出て10日余り、
「ようやく戻れたみたいね」
見覚えのある平原風景が広がっている。やがて、遠くの山のふもとに、それほど大きくない町が見えてきた。久々のミーの町。
隻眼の黒龍は、町の上空を2、3回旋回し、徐々に高度を下げていく。見たところ、特に変わった様子はなさそうだ。大きな事件もなく、平穏無事な日々が続いていたのだろう。
黒龍は、さらに高度を下げ、館の中庭に着陸した。館にも、特段変わった様子はない。わたしは黒龍の背中から地上に降りた。黒龍はすぐさま体を子犬サイズに縮め、ちょこんとわたしの腕の中に飛び込む。
「えっ!? ちょっと、プチドラ!」
わたしはバランスを崩して倒れかけたけれど、どうにか踏みとどまった。ただでさえ、荷物の詰まった風呂敷包みが重いのに、この上、プチドラの体重まで支えるとなると、少々辛いものがある。
わたしはプチドラを抱えて「よいしょ」と館の玄関を開け、
「ただいま」
返事が帰ってくるとは思えないけど(予告なしの帰国なので)、一応、挨拶は基本だから。果して、しばらく待っていても、誰も迎えに出てこなかった。でも、適当に館の中を歩いていれば、誰か捕まるだろう。とりあえず、風呂敷包みをなんとかしたい。
わたしは玄関から事務室に向かって歩き出した。仕事熱心なポット大臣のことだから、事務室で難しい顔をして書類と「格闘」していることだろう。
ところが……
「ギャッ!!!」
廊下を歩いていると、いきなり応接室のドアが開き、中から出てきた鎧武者(ほぼ完全武装の騎士)と鉢合わせになった。運動エネルギーは相手が勝っていたようで(風呂敷包みを背負っているために、もともとバランスが悪かったこともあるが)、わたしはドシンと不覚にも尻餅をついてしまった。