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ザ☆旅行記Ⅵ ウェルシーにおける動乱記  作者: 小宮登志子
第2章 商談と団体交渉
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執行委員長の長広舌

 レッドポール執行委員長は、ひととおりメンバー紹介を終えると、

「では、早速でございますが、要求書に関するお願いの件でございますが……」

 執行委員長は長々と「お願い」の内容の説明を始めた。先々代ウェルシー伯が宝石産出地帯の開発に乗り出した頃、開発資金が不足していたので騎士会との間で契約を締結し、云々と。この辺りの話なら、前にポット大臣から聞いている。結論から先に言ってくれれば、一言「NO」で終わるところ、これは交渉を長引かせて疲れさせようという魂胆だろうか。


 説明は、非常に長い時間、続いた。枝葉の部分が多すぎるのだ。ただ単に聞いているだけでは、どうしても生理的要求には逆らえず、まぶたが重く……

「ダメよ、カトリーナさん」

 うとうとしかかったところで、エレンがこっそりとわたしを突っついた。理屈で分かってはいるが、分かっていてもどうにもならないこともある。

 少しでも目を覚ます足しにしようと、改めて騎士会執行委員の面々を眺めてみると、武官らしく甲冑(RPG的にはスーツアーマー)に身を包んだ(ただし剣は帯びず兜もかぶっていない)無骨な面構えが10人ほど。見た目だけは歴戦の勇士といったところか。でも、実際には大して役に立っていない。一人だけ仮面(夜店でよく見かける「お面」みたいな)を付けているのがいるが、顔にひどい傷跡でもあるのか、こけおどしか、あるいは単なるファッションか。


「以上のことにかんがみ、宝石産出地帯から産出される宝石のうち55%は騎士が受け取るべきであるという、古くからの契約が、現状においても有効であることを確認したいのでございます」

 ようやく執行委員長の長い話が終わった。延々と1時間以上、一人で喋り続けていた計算になる。結論の部分だけを最初に言ってくれれば、交渉は5分で済むところなのに。プチドラは、いつの間にか、わたしの膝の上で、すやすやと寝息を立てている。

 でも、とにかく交渉はこれからが本番ということで、わたしは気を取り直し、

「現状においては、契約は既に消滅しています。そのような要求は認められません」

「それは、いかがなものですかな。私どもとしましては、契約書の書面は、当時のままに、今でも大切に保管しておりますし、それは伯爵様も同じでございましょう。宝石産出地帯は、一度は敵の手に落ちたとはいえ、今は我々が奪回し、昔のように生産を始めている。そうなりますと、当該契約につきましては、解除理由があるわけではなく、合意解除がなされたという事実もない。元の契約には、今のところ、まったく手が加えられておりませんから、契約は今もなお、締結当時のままに有効でございます」

 言葉遣いは丁寧だけど、年寄りが子供をさとすように穏やかな口調や、絶えず浮かべている穏やかな笑みが嫌味で、なんだか小ばかにされているような気がする。

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