厄介な問題
厄介な問題? 何やら思わせぶりな口ぶりだけど……
「つまり、規制が厳しくて、なかなか商売させてもらえないということさ」
デスマッチは言葉を続けた。話によれば、帝国内で広域的な事業を営む場合には帝国政府の営業許可が必要であるが、その許可が簡単に下りないところが一番の問題だという。無許可営業は当然違法、罰金では済まないこともあるらしい。
「許可って、そんなにもらうのが難しいの?」
「ああ、普通に申請するのでは無理だね。有力なコネがなければいけないし、同時に多額のワイロを贈るくらいのことはしないと、なかなか許可をもらえないよ」
「でも、それって、すごい参入障壁ね。しかも、ワイロは非合法でしょ」
「非合法は非合法なんだが、そうやって、政権にある貴族たちは露骨に私腹を肥やしてるんだ。とにかく、他の問題はなんとかなるかもしれないが、この点だけは、我々G&Pブラザーズではどうにもならん。逆に言えば、ここをうまくクリアできれば、ということだが……」
デスマッチは「ウーン」とうなった。
有力なコネ…… 差し当たって思いつくのは「単細胞」のツンドラ候くらいだが、
「具体的に、誰のコネがあればいいの?」
「タダの役人ではなく、少なくとも、帝国の政治の中枢にいるような大貴族でなければならんだろうな。帝国宰相くらいの力があれば確実だが……」
なんと!? であれば、総合商社の設立は非常に困難かもしれない。帝国宰相がわたしのために骨を折ってくれるとは思えない。会社組織が整ったとしても、営業許可が下りなければ意味がない。
結局、さしたる収穫もないまま、わたしたちはミーの町に戻ることにした。わたしは隻眼の黒龍の背中から、見送りに出てくれたデスマッチを前に、
「お騒がせしたわね。今日はこれで引き揚げるわ」
「気をつけてな。総合商社の件は検討するから、しばらく時間がほしい」
デスマッチが言った。本当に検討する気があるのだろうか。デスマッチの後ろには、包帯を巻いたギルド員がズラリと並んでいる。それを見たメアリーは、恥じ入るように顔を下に向けた。任務遂行の結果だから、気にすることはないと思うけど。
「検討にどれくらいの時間がかかるの? 次に、いつ来ればいい?」
「いや、返答にはこちらから出向くので、気にしないでいい」
と、デスマッチ。怪我をしたギルド員を並べたのは、「二度と来ないでくれ」という黙示の意思表示かもしれない。わたしとしても、好き好んで乱闘騒ぎを引き起こしているわけではない。受付が素直に応じてくれればよかったのだ。
「マスター、飛ぶよ。用意はいい?」
隻眼の黒龍は巨大なコウモリの翼を大きく広げ、そのまま垂直上昇。デスマッチたちはどんどん小さくなっていく。総合商社がダメならどうするか…… 帰ってから考えることにしよう。




