宝石の独占販売契約
わたしはデスマッチに総合商社の企画について説明した。わたしとG&Pブラザーズ(あるいはデスマッチ個人)が半分ずつ出資して株式会社を設立し、最初のうちはG&Pブラザーズの(裏の世界での)勢力圏である帝国の西半分で、ゆくゆくは帝国全土で事業を展開するというものだ。ただし、これだけであれば、「儲け話」でもなんでもない。実は、こちらから特典を用意していて、
「もし、話に乗ってくれるなら、宝石の独占販売契約を締結してもいいわ」
「宝石の独占販売契約!?」
一瞬、デスマッチの目の色が変わった。ウェルシーの宝石は高品質で、皇帝や諸侯の装飾品の半分は、わたしの本拠地、ミーの町で作られている。独占販売契約によってウェルシーの宝石の販売権を手中に収めれば、G&Pブラザーズには大きな利益が約束されることになり、これはデスマッチにとって悪い話ではないはずだ。
「う~む、そうだな……」
デスマッチは腕を組み、目を閉じて、じっと考えている。興味を引かれたのだろう。なお、宝石の販売価格はそれなりに上げるつもり。マーチャント商会を相手にしていた今までが異常に安すぎたのだから、多少の値上げをしても、G&Pブラザーズにはまだかなりの利益が残るはずだ。ついでに、食糧の購入価格も今までより引き下げてもらおう。
しばらくすると、デスマッチは目を開け、静かに言った。
「うむ、わかった」
わたしは思わず身を乗り出し、
「ということは、商談成立?」
「いや、その話については、しばらく考えさせてほしい」
どういうことだろうか。喜んで食いついてくると思ったのに、意外な展開だ。
「しばらく考えるって? 要するに、『お断りします』ってこと?」
デスマッチは、「ふぅ」とため息を一つして、
「そうじゃない。実際問題、そんなに簡単に会社を設立できるわけがないだろう」
「ウェルシーで法人登記すれば簡単よ。ここだけの話、わたしの権限でチョイと……」
「あのな、登記だけじゃなくて…… 登記以前の問題として、そもそも、会社の実体が整わなければどうにもならんだろう」
デスマッチは、くどくどと、簡単にいかない理由の説明を始めた。会社の設立や登記は簡単にできるとしても、従業員を雇って会社組織を整備し、新たに顧客を獲得し、利益を上げなければならない。総合商社のノウハウも何もないところでゼロから始めるのは、非常な困難が伴う。
でも、そんなことは(言われなくたって)、当然、想定の範囲内であり……
「従業員が足りないなら、必要があればこちらから人員を派遣してもいいし、事業が軌道に乗るまで資金を融通してもいいわよ」
「そのくらいのことは、当然、してもらうさ。ただ、もうひとつ厄介な問題があるんだ」




