商談開始
プチドラの火炎放射による先制攻撃で、受付はこの前と同じように修羅場と化した。「なんじゃ、オラ~」、「討ち入りか~」、「なめとんのか~」などと、次々とギルド員が手に手にエモノを持って繰り出してくる。プチドラとメアリーはギルド員を千切っては投げ、千切っては投げ……
で、そうこうしているうちに、
「何事だ? 騒々しいぞ」
そこそこイケメンの男が右手にハンドアックス、左手にメイスを持って飛び出してきた。G&Pブラザーズ代表取締役社長、レオ・ザ・デスマッチだ。
わたしは手を振って、ニッコリと笑みを浮かべ、
「久しぶりね。元気だった?」
すると、デスマッチはガックリとうなだれ、
「また、おまえか……」
と、露骨にイヤそうな態度を表明するのだった。
デスマッチはわたしたちを社長室に通すと、苦虫を噛みつぶしたような顔をして、
「今日はどんな用件だ? 我々だって、そんなにヒマじゃないのでな。できれば手短かに願いたい」
デスマッチは御機嫌斜めらしい。無理もないだろうけど……
「いつになく、虫の居所がよくないようね。『笑う門には福来たる』って言うでしょ」
「おちょくりに来ただけなら帰ってくれ。こっちはビジネスの案件を大量に抱えてるんだ」
「ビジネスというと、いつもの非合法活動? そういえば、捕虜の交換の話って、どうなってたんだっけ?」
わたしは不意に懸案事項を思い出した。今となっては解決不可能の(哀れ、ゾンビ化してしまった)猟犬隊員及びギルド員の交換のことだ。
すると、デスマッチはうんざりした顔で、
「あのな…… 正直、その話はスッカリ忘れていたよ。そんな話をするために、人の会社の玄関先で大暴れしていたのか? 先ほどの乱暴狼藉は営業妨害だぞ。我々は、今は真っ当な商行為を営んでいるんだ」
「そうらしいわね。あなたたちが合法的な商売を始めたと聞いたから、今日は、『お互いに合法的に儲けましょう』という話をしにきたの。とりあえず、頭をクールダウンさせて聞いてほしいわ」
わたしとしても、今更、本気で捕虜の交換問題を解決しようと考えているわけではない。
デスマッチはソファに座り直すと、一つ、大きく息をして、
「うむ、分かった。商談のつもりなら、一応、話は聞こう」
さすがはデスマッチというか、以前に何度も見たような冷静な表情に戻っている。商売人だけあって、こういう切り替えの早さは一級品だ。
「かいつまんで言うと、そちらで総合商社を設立してはどうかという話なの」
「はぁ? 総合商社だって??」
「そう。マーチャント商会に負けないくらいのをね」
デスマッチは、どう反応していいか分からないのか、ポカンと大きな口を開けた。