ただいま実技指導中
わたしはプチドラを抱いて館を出た。行き先は、お隣のカトリーナ学院。ただし、学院の視察に行くわけではない。メアリーに、ミスティア行きの護衛を頼もうと思ったから。
「お隣……の分際で、随分と距離があるわね」
館もカトリーナ学院も敷地面積が広いせいか、歩いていくと、それなりに時間がかかる。運動不足のわたしには辛い。そういえば、この前に来た時に「地下通路を作ろう」と思って、それっきり、忘れていた。
カトリーナ学院の門をくぐると、大きな庭園が広がっている。噴水や花壇などは、やはり、館の中庭のものよりも立派な感じがして、その向こうには、2階建てでレンガ造りの校舎が威容を見せつけていた。
そして、その校舎の前では、メアリーとマリアが5人の生徒を相手に、魔法の実技指導をしている。
「ここは、こうして気合を送って…… そして、ばぁ~っと……」
マリアはオーケストラの指揮者のような身振り手振りを交えて説明していた。しかし生徒の反応は今一つのようで、生徒たちはしきりに首をひねっている。
「ただいま、今、戻ったよ」
わたしが手を振ると、メアリーはすぐにかしこまって、
「カトリーナ様、お帰りなさいませ。お迎えにも出ず、失礼いたしました」
「そんな面倒なことはしなくてもいいわ。今日の授業はマリアも一緒なのね」
「そうです。二人でのコンビネーション魔法の練習をしていたのですが、なかなか言葉で説明するのが難しくて……」
メアリーは銀色の長い髪をなびかせて言った。いつ見ても、ほれぼれするほどの美しさ、うらやましい限りだ。メアリーによれば、魔法科の生徒は基本的な技術を習得したので、このところはその応用として、比較的高度な魔法を教えているらしい。今日の授業は、二人で協力することによって魔法の威力を高める訓練ということだけど、なかなか大変そうだ。でも、応用編に入っているということは、
「もうそろそろ、魔法戦隊を編成してもいい頃じゃないかしら」
「カトリーナ様、それはちょっと…… もうしばらく、時間をいただきたく……」
と、つれない返事。魔法使いは、「使える」ようになるまで、結構な時間がかかるらしい。
前置きが長くなったけど、そろそろ本題、
「メアリー、突然のことで悪いんだけど、明日、ミスティアまでつき合ってほしいの」
「ミスティアですが? 分かりました。授業はマリアに代わってもらいますから、問題ありません。でも、カトリーナ様自らがミスティアに出向かれるということは、また、何か…… その、つまり、危ない話なのでしょうか」
「今回は単なる商行為だから、危なくはないと思うよ」
わたしは、思わず苦笑。メアリーとマリアは、わたしのことを「何かにつけて厄介事を持ち込む物騒な女」とでも思っているのだろうか。