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戦争と平和

 戦乱に疲れれば平和を欲し、平和に倦めば戦乱を求める。これは人々の性なのかもしれない。今まで恒久の平和が実現することはなかったし、そのようなことは今後もないだろう。しかし、だからといって、修羅の道、戦国乱世が永遠に続くわけでもない。いい加減、戦いに飽きてくれば、人々は矛を収めるだろう。戦争屋も恥じ入ることはないと思う。所詮、戦争と平和は表裏一体、生命の本質とも言うべきものだから。


 それはさておき、わたしは、帝都の地下室で、クラウディアやガイウスとともに、このところ恒例の、でも、当面は今日でお終いのティータイムを楽しんでいた。

「国に戻られるのですね。せっかく仲良くなれたのに……」

 いきなりクラウディアはわたしの手を握り締めた。よく見ると、なんだか目が潤んでいるようにも見える。

「そんな、大袈裟な…… これが今生の別れじゃないよ」

「カトリーナさん、本当に、いろいろと、お世話になってばかりで……」

 クラウディアはわたしに抱きついた。涙もろい性格なのか、感情の起伏が激しいのか……

「本当に、感謝を言葉で表現しようがないくらいだ。もし、何かあれば、言ってくれればいい。我々にできることであれば、いつでも力になるから」

 と、ガイウス。ダーク・エルフもエルフの例に漏れず、義理堅いようだ。でも、それほど感謝されるようなことをしてきただろうか。屋敷の地下を貸しているのは賃料と等価関係にあるからだし、クラウディアをかくまったのは成り行きだし、皇帝を暗殺したのは単なる思いつき。つまり、善意から出たものではない。ただ、感謝されるのは悪い気がしない。せっかくだから、そのうち、お言葉に甘えさせてもらおう。


 何もかもお見通しの神がかり行者によれば、皇帝は既に死亡しているとのこと。今後の展開としては、ガイウスの読みによれば、いずれ帝位を巡って争乱が発生することは確実だという。そうであれば、来るべき動乱に備え、富国強兵を図るべきだろう。早急にまとまった兵力を準備しなければならない。

 そういった観点で見ると、国の軍備は十分なレベルではない。隻眼の黒龍、メアリー、マリアの打撃力は相当なものだけど、猟犬隊は軍隊ではなく、親衛隊の規模は小さすぎる。トータルで軍事力を強化するためには、もっと地味な分野から手をつけなければならないわけで、例えば、傭兵を雇うとか、騎士団を完全に掌握するとか……いずれにせよ、一筋縄ではいかないだろう。


 そして、出発の日(ガイウスもクラウディアも、機密保持のため、見送りには来ていない)、

「マスター、行くよ」

 プチドラは体を象のように大きく膨らませ、巨大なコウモリの翼を左右に広げた。左目が爛々と輝く。わたしは伝説のエルブンボウやおみやげを詰めた風呂敷包みを背負い、隻眼の黒龍の背中に乗って、ウェルシーに向け飛び立つのだった。

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