背中越しの世界
「お~い!朝だぞ~!」
カーテンの間から差し込む光は何度見ても眩しい。
気分が憂鬱になりながらも身体を起こして窓を開ける。深く息を吸うと冷たい朝の空気が身体全体に染み渡り、エネルギーを与えてくれる。
「朝は気もち良いですなぁ~」
「死んでも気もち良いってあるんだね」
「そりぁあるよ!」
顔も見てないのに彼女の露骨な気持ちがよく伝わる。悠然としている僕を、どこか攪乱したさそうだ。
饒舌で無垢な彼女の話を聞いていると、いつの間にか学校にいた。
僕の将来の夢は儚いものだが、逡巡としていた。だが、そこに声を掛けてくれる人がいた。
放課後のベルが今日もなる。
「真君公務員になるの?」
「うん、」
僕がなりたいのではなかったが、親の意向だ。
「駄目だよ真君!そんなのトラジックじゃん!」
「ト....トラジック?」
「そうだよ!自分の進路は自分で考えなきゃ!」
また彼女は怒っていた、いや、当然なのかもしれない。彼女の事を考えれば......けだし名言である。
だが、何でもアベレージな僕が他の進路をこれから選んで、モチベーションを上げることは難しかった。
意味もなく開いていたノートを閉じ、教室をでた。
廊下に足音がよく響く。窓から差し込む夕日は眩しい。
彼女は近くにいるのだろうか、音がしないと分からない物だ。
静穏な日々が続いていたはずだったのに、彼女と出会ってからはまるで別物だった。付き合って最初のうちは、彼女に恍惚としていた。そのうち牽制とした出来事が起こり、彼女を失った。
過去を振り返れば振り返るほど傷が深み、愛しくてしょうがない。
玄関を出て校門の地平線から浮かび上がる化現とした夕日は、青春の輝きだった。でも、顔を上げることが出来ない。羞恥の上だから。
抑鬱とした気持ちで家に入る。
「ただいま」
「お邪魔しまーす!」
返事が来ないことを察し、台所へ行って冷蔵庫を探った。暫時眺めていたが、好みの飲み物がなく少し憂鬱になったので部屋に行って寝ることにした。
「うはー。ここが真君の部屋かぁー。案外綺麗だねぇ」
「汚いとでも思ったの?」
そう言うと彼女は笑い始めた。蕭洒な僕の部屋は、少し女子っぽかった。
深くため息をしながら僕はベットに寝転がった。
彼女は透き通ったため息をした。
きっと僕の背中越しにいるのだろう。視線が合わない。
けどこんなに近くにいるのに、遠い気がする。
窮状に追い込まれてきた僕自身は涙を流していた。
淡白としたこの世界は美しい。だがどこか絶望的なところがあり、憎悪や憎しみが増してしょうがない。でも、その二足歩行に列して愛しさが闊歩して来る。幾ばくとしたゴールを見て納得するしかないのは、鑑識眼が足りないからだ。だから、その現実から逃げたいが為に彼女と一緒にいたい。
ずっと愛し続けたい。