三題噺 お題.:雷、アルバム、いてつく遊び
「えっと、これはここにっと……」
私は部屋を片付けている真っ最中だった。
大学生になり、親元を離れて3ヶ月、一人暮らしも慣れてきたところだ。
今日はせっかくの週末なのに大雨と雷が降っていて外に出れないから、一気に部屋を片付けようとしている。
納戸の中を整理していると、上の方のダンボールが傾いてドシャーンと落ちてきた。
ダンボールの中身の本がバラバラと散らばる。
「あー、やっちゃった……」
思わずつぶやいてため息をつく。
仕方なく本を拾うと、
「あ、懐かしい!」
小学生の頃の卒業アルバムだった。
パラパラと開いて眺めて……あるページで手が止まった。
男の子と女の子が仲良さそうにピースサインをしている。
女の子は私、男の子は……
私はこの時のことを思い出す。
そう、この日は今日みたいな雷雨だった。
小学生5年生の冬、同じ学年のみんなで森の中の小屋に宿泊するイベントがあった。
こういうイベントにつきものなのが、上回生から伝え聞くうわさである。
その中の一つに、「いてつく遊び」というものがあった。
夜、みんなが寝静まった頃に小屋を抜けだし、森の中の小さな湖のそばでかけっこをして遊んだ2人はずっと仲良しでいられる、というものだった。
イベントの時期的にいてつくように寒いので、「いてつく遊び」と呼ばれていた。
誰かの作り話であろう。
だが、私とその男の子はそれを信じた。
夜中、2人は小屋を抜けだした。
雨に濡れ、雷に怯えながらも2人はしっかりと手をつなぎ、無事湖にたどり着いた。
「ここから一周ね」
「全力で走れよ」
「うん!」
2人は走るかまえをする。
「よーい、どん!」
男の子の声で2人は走りだす。
体は冷え、本当にいてつくように寒かった。
けれど、さっきまで繋いでいた手は暖かく、その温もりにおいていかれたくなくて、全力で走った。
ほぼ同時に一周走り終えた。
私は男の子の手をぎゅっと握った。
「これで、ずっと仲良しでいられるよね?」
男の子は私の手を握りかえしてにっこり笑った。
「もちろん。
ずっと仲良しだよ」
雷の音がして私は我に返った。
思い出に浸っていたようだ。
外は変わらず大雨、ときおり雷の音が聞こえる。
私はスマホを取り出し、ある人……当時の男の子を呼び出す。
「今から行く」
と告げてすぐ切る。
そしてあの時のように外へ飛びだした。
少し走ったところで、向こうから走ってくる人が見えた。
あの人だ。
「何やってんだよ」
と呆れたように言う。
私は彼の手を握った。
「あの時みたいだな」
彼は私の手を握り返す。
「うん」
その温もりは、あの時と少しも違っていなかった。
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