しろいはな
『詩』になっていないかも知れませんがカテゴリーにちょうど良いのが無かったので
しろいはな
小さな花が咲いていた
とても小さな花だった
誰にも気付かれず
誰の目にもとまらない
最後に見たのは白い花
人を買い人を売る
人間を家畜として取引する奴隷商人
直接「親」から買うこともあるが迷子や一人の所を攫うこともあった
泣き叫ぶ子供を殴り怯える姿を見ると安心した
そう、昔の自分のように
卑屈に怯え
何も知らず
知らないことに恐怖し
他人に矛先がいくことに安堵した
言うことを聞かすため売り物にならないガキを生きたまま解体して見せたし
皆の前で手込めにした娘も多くいた
昔自分がされたように
善人ぶった騎士団に襲われた
何人かは道連れにした
こいつらの何人かは取引先の娼館で見たことがある
目の前の団長などは男女を問わずあそこから何人も連れて行った
弄んだ後で武器や防具の試し切りに使っている
俺は首をはねられた
落ちた藪の中薄れていく意識の中で目に映ったのは
白い花
しろい は な
儂を看取ったのは小さな花だった
しろい名も無き花
任務は疫病のはびこる村を処理することであった
そのため上級貴族の子弟は外されていた
残ったのは平民や下級貴族で太鼓持ちをしていたものたちばかりである
かく言う儂も機嫌取りのために人買いから「生け贄」となる者たちを手に入れていた
所詮あの者達も惨めに生き続けるよりもさっさと終わらせてやった方が慈悲であろう
村に忍び込み一人づつ殺していく
半数以上始末したとき隠れてみていたガキが騒ぎ出した
だがもう遅い
多少時間はかかったが程なく片が付いた
新入りや若輩の中にはけっこう参っている奴もいるがこれからが本題である
要らない事を知っている部下を始末する
口封じをして疫病を止めた英雄として祭り上げればどこからも文句は言われない
だがそれは儂も同じだったようだ
狂言のはずの疫病が儂らを襲った
見る影も無くやせ細った腹心を殺しまだ元気だった新入りを殺し目に付いた部下を殺す
村に入った全ての人間を殺した
熱と痛みに朦朧としながら地を這い生き残りを探す
せめて儂を看取るものはいないかと
そして最後に目に入ったのは
しろいはな
小さな小さな
まっしろなはな
しろいはな
しろいはな
大地に帰る人々をただ見つめる
我が子を手に掛ける親
愛におぼれ愛に裏切られ死によって幕を閉じた二人
勇者と呼ばれる男と相打ちになった暗殺人形の幼女
魔性の女に謀殺される男と巻き添えとなる人たち
何も知らずに刑場の露と消える廃貴族の子供達
貴賤も貧富も無くただ地に帰る
覚悟も悲哀も恐怖も安らぎも
全てを受け止め大地はただ其処にある
この世界を制した人間と呼ばれる生き物
どれほど時が経とうとも人間は人間
変わること無く大地に生まれ大地に帰る
遙かな昔からその姿をただ静かに見つめるしろいはな
小さな小さな白い花
どれほど時が経とうとも白い花は白い花
変わること無く大地を見つめる
いつまでもいつまでも
某所には展示物の一つとして鏡がおいてあるそうです。
最も凶暴な動物と銘打って。