お葬式の日
祖父が死んだ。
ご奉公先の奥さまが、ご厚意で手配を全て行ってくださり、リンネのやることは、教会で祖父が無事に天国へ行けよう祈るだけだった。
優しくはない祖父だった。
けれども、他に身よりのないリンネを厳しく育ててくれたお陰でどの奉公先でもやっていけていた。
一度もほめてくれることはなかったけれど。
お葬式を終えて、参列してくださった方々と神父さまを見送ったあと、リンネは祈っていた。
どうか、おじい様安らかに。
私はなんとか大丈夫です。
そんなリンネの前に現われたのは、天使様ではなく、風変わりな紳士だった。
教会の高いドアにも負けない長身が、するりと猫のように、けれども人を振り向かせる存在感を持って彼は現れた。
「君が、リンネ・ガーランド?」
白くも見える銀髪は長い。流れるような髪をゆるく結い、軽薄な印象も漂うが、その痩身を包むのは厳格な三つ揃い。そしてまだ若いと思われるというのに、気難しい老人のように片眼鏡をかけている。
若者というにも、青年というにもふさわしくなく、やはり彼は紳士だった。
誰もいないはずだった教会に響いた声に少し驚いているリンネをよそに、紳士は手入れの行き届いた靴を静かに鳴らして、彼女の前に立つ。
静かにコツコツと響く靴音を聞きながら、この人は本当に紳士なのだとリンネは思った。
幾ら立派なことを言っても、自分はここにいるぞというように高らかな靴音を響かせるのは、傲慢な性格が表れているからだ。
「エンドラン・ガーランドからよく君のことは聞いていたよ」
彼の口から祖父の名前が滑り出て、リンネは再び瞬いた。
「……祖父をご存じなのですか?」
リンネが思わず尋ねると、紳士は不快を表すこともなく、ゆったりと微笑んだ。
「君に話がある。僕と一緒に来てくれないか?」
もしからしたら、とても上品な人さらいなのかもしれない。
けれども、リンネは紳士の言葉に肯いていた。