第八話 誕生前夜の宴
夕闇が辺りを包む頃、ソルディスの誕生を祝う宴は盛大に始まった。
誕生日の前日の夜から国内外の有力な貴族・王族がリディアの王城を訪れ、王室主催のパーティに参加する。
誕生日当日の朝からは豪商や豪農などの貴族階級ではないが裕福な人たちが貢ぎ物を持って現れ、昼頃には国民の前に顔を出して王子のお披露目となる。
そして誕生日の翌日には戴冠式・・・正式にソルディスが王位を継ぐという流れがすでに決まっていた。
ソルディスは王の横の椅子に座りながら、父王や自分に挨拶する貴族達の顔を見ていた。
王の横には王妃・・・ソルディス達の母・ソフィアが悠然と座っている。そしてさらに向こうにはサイラスが、ソルディスが座っている者よりも立派な椅子に居心地悪そうに座っていた。
その様子を見て、大体の貴族達は訝しげな顔をしたが、できるだけ表情に出さず、バルガスの悋気に触れないように心がけながら世辞を言ってゆく。ひどい者はバルガスにのみ祝辞を述べ、ソルディスには礼だけで済ませている。
「ソルディス殿下、ご生誕の儀、誠におめでとうございます」
そんな中、ディナラーデ卿ウィルフレッドはきちんと儀礼に乗っ取り、ソルディスに先に挨拶をした。
バルガスが嫌そうな顔をするが、大勢の前で王族でも自分と同じぐらいの位置を持つ彼を叱責することは出来ず歯がみしている。
「ありがとう、ディナラーデ卿。宴の準備などもありがとうございました。後はごゆるりとくつろいでください」
ソルディスは彼の挨拶に笑顔で返し、深々と下げた頭にねぎらいの言葉をかけた。
ウィルフレッドは更に深く頭を下げた後、バルガスへの挨拶もなくテラスの方へと消えていった。
「まったく、ディナラーデ卿にも困った者よ・・・我が甥とは言え、さすがに15才になるまで田舎で、下々の者と暮らしていた所為でどうも都での立ち居振る舞いというものが理解できておらん」
不満そうに述べるバルガスにソルディスは一つ息を吐くと
「父上、そのような言葉を述べると、どちらが王族として相応しくないかおのおの方に見せつける様なものですよ」
と完璧な笑顔で述べる。
かぁっと顔を赤らめるバルガスを見ないようにしながら、ソルディスは椅子から立ち上がる。
「ロシキスの方たちを放っておくのもまずいですよね。僕は今から王子達の相手をしてきます。後はよろしくお願いしますね、父上」
誰をも従わせる水色の眼光、それを縁取る光り輝く黄金・・・『竜国の薔薇』とまで謳われた母親譲りの美しい顔立ちで完璧な笑顔を作ったソルディスは止める暇も与えずにその場を去った。
始めてみせる後継者として相応しいソルディスの態度に有力貴族の中から感嘆の溜息が零れた。
「ま・・・まったく、あれも自分の生誕の儀だと判っているのか。王子が謁見しないなど何事だと・・・」
いつものように文句を言ってはみるものの、それは余りにも滑稽すぎてバルガスは去っていく息子の姿を憤怒の瞳で睨み付けたのだった。
徐々に話が進み始めました。