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第二十三話:聖長としての役目

 王子達と別れた後、ルアンリルは馬車の消えた扉と王宮から通じていた扉を閉めた。ついで自分たちがいた痕跡も綺麗に消してから教えられた通路へと入った。

 少しだけ地下になっているそこは先ほど通ってきた通路とは異なり、わずかな距離で出口に辿り着いた。

 外の音と気配を確認しながら扉を開けると、そこは城壁の近くの通路の一角だった。偶然にも誰にも見つからない状態で出られたことに感謝しながら、ルアンリルは急いで隠し扉を閉める。閉められた扉は、そこに通路があるとは思えないぐらい自然に壁面の一部と同化した。

 周りの景色から、ここから城に戻るのにそれほど距離はないと判る。

 ルアンリルは自分の腰に携えた剣を抜くと、短く詠唱をした。

「炎の精霊よ、剣に宿り我に力を貸せ炎剣フィアソード

 途端、手にもった刀身に熱が宿る。自分の魔法に誘われるように現れ、体に纏わりつく炎の精霊にルアンリルは目を細めた。

「さあ、炎の柱でもあげましょうか」

 こちらで騒動が起これば、検問の人数は減る。その分だけ王子たちの脱出が容易くなるはずだ。

 城のそこかしこで起きている火の手のおかげで集めようと思わなくても炎の精霊は自分の元へ来てくれる。

 物陰に隠れ、息を潜めながらもルアンリルは城壁の門の一つへと突進した。

 突然現れたルアンリルに兵士たちが色めき立つ。だがその誰もが声を出せないうちに、ルアンリルは精霊たちの力を借りて炎の柱を上げた。

 断末魔と共に黒焦げになる彼らを横目に見ながら、他から集まってきた兵士たちを炎の宿った剣で切り伏せる。ルアンリルが剣を揮い、指先で精霊に指示を与えるたびに山のような死体が出来上がっていった。

「貴様ぁぁっ!」

 兵たちの後ろの方から喚くような声がした。見ると明らかに傭兵と思しき人物がこちらを睨んでいた。

「聖長、ルアンリル=フィーナ・エディン。精霊族の族長として、王家に反逆の旗を翻した我が一族のウィルフレッドを討ち取りにきた」

 口上を述べる若き魔法使いに兵達は少し後じさった。

 魔法力では随一の能力を有しているとして、若くして聖長の地位についた魔法使いの名は国中で有名だった。

 バルガス王と折り合いが悪かったせいであまり表舞台に立つことは少なかったが、以前、腕試しに広大な野原を一瞬にして炎で包み、その後、また大地を復活させたその能力は誰もが認めるところだった。

 じりじりと間合いを詰めてくるルアンリルに傭兵も、兵士も、どう対処してよいか迷う。何かの僅かの揺らぎで崩れそうな緊張感が辺りを支配する。

「やあ、ルフィーナ・・・」

 一人対他人数の均衡を破ったのは、どこか落ち着いた声だった。

 いつの間に現れたのか、並居る兵の一番後ろからウィルフレッドはその姿を見せる。

 いつも通りに穏やかに自分の愛称を呼び手を振る姿は、謀反を企てた人物とは思えない。だが彼は先ほど、ソルディス王子に対して反逆を宣言した。

 それは世界の秩序を・・・王国の安寧を守る聖長として許せないものだった。

「ディナラーデ卿・・・あなたには失望した。ソルディス王子に反旗を翻すなどと、よくも出来たものだな」

 ルアンリルの怒りに呼応して炎の精霊が数を増やし、増大させている。剣に宿っていた炎が、勢いを増し、紅い光を放った。

「・・・従妹殿の機嫌は悪いようだ。死にたくなかったら、さがっていろ」

 ウィルフレッドは自分の前にいた兵士達を下がらせると、自らも腰に携えた剣を抜いた。

 黒い刀身が闇の中で怪しく光る。彼の周りにはいつの間に集まったのか、闇の精霊が妖艶に微笑んでいた。

 二人の周りには二種類の精霊達がひしめき合い、近寄ろうとするものを焼き尽くし闇へと誘う。

「ルフィーナ・・・忘れているようだが、私は王族だよ。それに鏡の向こうで聞いていただろう。王位継承のための『見透かす心』も引き継いでいる・・・今まで大人しくしていたのは今日と言う日のための布石だ」

 闇の精霊と同じように怪しげな雰囲気を放つその笑みは、今までルアンリルが見たことのない彼の表情だった。竦む体に気合を入れつつ、彼との間合いを詰めてゆく。

 魔術師たちの意思に反応して、精霊達は互いに攻撃しあい弱いものが次々と霧散する。

「それでも、正当なる王位継承者はソルディス王子しかいない」

「やれやれ、従妹殿ルフィーナも頭が固い」

 いきり立つルアンリルとの絶妙な間合いをしっかりと保ち、彼はすぅっと切っ先を動かす。それと同時に闇の精霊がルアンリルに向かって襲い掛かった。

 多大な攻撃力を秘めた精霊の指先をルアンリルが寸でのところで交わすと、今度は上級の炎の精霊が逆にウィルフレッドに襲いかかった。

「水の精霊・アクアフィード」

 いつの間に呼び出していたのか、水の上級精霊がルアンリルから送り出された炎をかき消そうとし、互いに消えてゆく。

「単調な攻撃だな。だが威力だけは強いようだ」

 ウィルフレッドはそれだけを言って、一気に間合いを詰めた。剣の届く範囲に入ってきた彼にルアンリルは逆に離れるように間合いを引いた。

 剣の腕では勝てる見込みがないことは知っている。だからこそ精霊魔法や理力魔法でけりをつけようと思っていた。

 逃げを打つルアンリルを許さないように、ウィルフレッドは軽やかな足取りで間合いを詰め剣を振り下ろす。

 鋭い剣戟があたりに響く。力に押されながらも、何とか交わしながらルアンリルは活路を見出そうといろいろと考えていた。

 しかしそのどれもが現実的には無理そうに感じてしまう。

 ルアンリルは炎の精霊を呼び戻しながら、自身と剣の周りに炎を作らせる。そして今度はルアンリルの方からウィルフレッドの間合いへと飛び込んだ。

「覚悟っ!」

 炎を身に纏い、全方向からの攻撃にした彼女は初めて、剣を振り上げた。

 ウィルフレッドが意表を突かれたよう目を見開き、対応しようとしたその時だった。

「ぐぅっ!」

 剣は振り下ろされず、炎を身に纏ったままのルアンリルがその場に倒れた。

 その背には右肩の部分に矢が刺さっている。

 矢の飛んできた方向を見ると王の間で別れたオーランド卿が得意そうにこちらをみていた。彼は自分の配下の弓を奪い取り、まるで自分の手柄のようにしている。

「ひ・・・きょ・・・な」

 恨めしげに睨みあげてくるルアンリルの体を、彼はそっと抱き起こすとその矢を引き抜いた。それと同時に止血と治癒の魔法をかける。

 矢を抜く衝撃で意識を失った体を静かに抱き上げると、ウィルフレッドは小さく「すまない」とその耳元に呟く。そして今度は冷たい視線でオーランド卿の方を見た。

「興を削ぐような真似をしてくれたな」

 喜んでいた彼は冷や水を浴びたように、おどおどとした目で周りを見た。彼らの一騎打ちを見ていた他の兵士達も無粋なオーランド卿に冷たい視線を送っている。

 ウィルフレッドはそれ以上言葉を継ぐ事もなく、思ったよりも小さな従妹弟の体を抱えたまま王の間に戻っていった。

ルアンリルvsウィルフレッドでした。

ウィルフレッドが反則的な横槍で勝ちましたが、横槍を入れた人間の未来は明るくないでしょう。ウィルフレッドは剣も精霊魔法も上位の魔法剣士です。理力魔法ではルアンリルに少し劣りますが精霊魔法では同等、剣術だけなら凌駕するほど強いです。


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