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第一話 日常の中の小さな冒険

 ────大国・リディア。

 世界と同じ名を持つその国は遙か昔、世界を作った女神の補佐をしていた者が建国したと言われている。

 王国は肥沃な大地の元で栄え、その富は他の国を凌駕していた。

 現国王はバルガス5世──────彼は正式な王位継承権を持っていない。

 彼が王位についた背景には、兄王子の駆け落ち後の早世と父王のの突然の崩御があった。

 貴族議会と聖司族の長老の判断でバルガスは自分の息子であるソルディス王子が戴冠可能な年齢になるまでの間、暫定的に王座につくこととなった。

 バルガスは王子時代もその愚行が有名であったが、これを機に更にその行状は悪化していく。

 自らの立場に都合のいい者だけを徴用し、苦言を呈す者・民衆に人気のある者に対しては何かしらの罪を付け、排除していた。

 そして彼は自らの王座を長引かせる為に『王位継承の変革』を提言する。

 現在の王位継承の必須条件である『光なす黄金』と『見透かす心』を排除し、正妃の長男より王位継承権の順位づけを行うというものである。

 この提言と共に彼は第一王子であるサイラス・ジェラルドを第一位王位継承者に任命し、王座は自らが死するまで自分が保持すると宣言した。

 これにより王宮は元来の王位継承者ソルディス派と新たなる王位継承者サイラス派に分裂する事となる。


 ──────王子達の心に反するままに。




 王宮、奥庭


 少年は一人、辺りを窺っていた。

 王宮の中でも特別なこの庭には自分の背丈を隠すほどの草花が植わっている。そのうえ色とりどりの花を区切るように植えられた植木は少年の身を隠すのに十分に役に立っていた。

「右よし、左よし」

 もう一度、確認すると彼は身をかがめたまま庭の奥へと一直線に走る。そして人の気配を感じそうになると植木の中に身を隠した。

 少年の名はソルディス。このリディア王国の王位継承者である。

「後、もうちょっと、だ」

 あがりそうな息を整えながら、ソルディスは目の前に近づいてきた壁を見る。

 彼がその建物に気付いたのはつい先日だった。

 王宮内でも王以外の者が近づけないように庭の奥に位置している高い塀に囲まれた建物。まるで牢獄のようなそれは秘密の匂い強く放っている。

 最初に近づいた時は、真正面から行き過ぎたために塀に張り付いている衛兵にあしらわれ、すぐさま庭から追い出された。

 それからも何度かトライし、ようやく塀の一部にひび割れた箇所を見つけた。

 目的の場所は塀の外も内もひびを隠すように植木が生えており、小さな子供が一人ぐらいなら抜けられるようになっていた。

 あと少しすれば衛兵の交代の時間だ。

 交代は建物の入り口で行われるので、この植木に近づくには最良のタイミングとなる。

 彼は懐中時計を出すともう一度時間を確認する。針はちょうど交替の時間を指していた。

 細心の注意で気配を読み取り、誰もいないのを確認すると彼は一気に目的の植木まで走り抜いた。


 カサリ・・・・


 わずかな音と共に植木の中に身を潜めるとそのままの勢いで塀の内側へと身をねじり込ませる。

 外側の植木よりも内側の植木の方が縒り大きく、ソルディスの小さな身体は完全にその中に入った。

「よしっ」

 彼は小さくガッツポーズを作る、今度は入ったばかりの塀の中を観察した。

 衛兵が塀の中に入ってくる事はない。

 ここに入れるのは唯一、自分の父であるバルガスだけである。

 彼は大切な来客があるとのことだったので、今日はここには訪れる時間など作れない。

 つまりここには塀の中の住人だけしかいないはずである。

 はやる気持ちを抑えつつ、彼は気配を読んでいた。

 今のところ誰の気配も感じない。

 塀の中の建物は一つ、思ったよりもこぢんまりとした感じの離宮のみ。彼は見つからないように離宮の壁まで歩みを進めると、窓から中を覗き込んだ。

「人、は住んでる感じなんだけど」

 誰かが調理をしている匂い。

 彼は壁沿いに移動し、台所の窓まで移動して再度、中を覗き込んだ。

「え?・・・・」

 そこにいたのは自分と同じ色の髪を持つ少女だった。少女と言ってもソルディスよりずっと年上で17、8歳という所だろうか。

 たおやかな姿態、穏やかな明るい緑色の瞳。顔立ちだって『ロシキスの薔薇』と謳われたソルディスの母にひけは取らないだろう。

 何よりも上半身を彩る自分と同じ光を放つ黄金は彼女が王族の、それも王位継承権を持つ者だと示していた。

「ど、して?」

「だれ?!」

 ソルディスの呟きに気付いた少女は驚いたようにこちらへ振り向いた。

「あ・・・え?」

 ソルディスの容姿を見た彼女は大きく眼を開き、少し後ずさった。

「あ、あの・・・ごめんなさい。僕、勝手にここに忍びこんで・・・」

 少女の驚く姿に罪悪感を感じながら、ソルディスは状況を説明しようとした。

「ソルディス、王子?」

「あ、はい」

 ソルディスは自分の名前を呼ばれて笑顔になる。その笑顔に緊張が解けたのか、少女は彼のいる窓へと近づき、解放した。

「はじめまして、王子。私は、アーシアと申します。

 今、クッキーが焼けたところです。中に入ってお茶でもしませんか?」

 彼女の申し出に王子は花も綻ぶような笑顔で頷くと先程見つけて置いた建物の入り口から中に入った。


ソルディスとアーシアの出会いです。

話が遅々として進まない気がしますがお許し下さい。


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