裏切り者とまた明日
「そこまで血を流せば、もう動けまい」
空が青い。
耳鳴りとこちらを見下ろす男の声が、倒れた私の体を苛んでいる。
「最後に言い残すことは」
濁った血が口からこぷりと出た。
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そもそもの始まりは、孤児院で遊んでいた時に前世を思い出したことだった。
私は目の前の幼馴染が、将来勇者になることに気づいた。
そして自分は、勇者が最後の力に目覚める為に死ぬ幼馴染の少女であることも。
とはいっても物語終盤での出来事だ。それまでに勇者から離れればいい。
そんな楽観的な気持ちと幼馴染としての情から、私は物語通りに勇者パーティに加入した。
その頃にはもう、勇者を家族として見るようになっていた。失いたくない。この世界でたった1人の、私の家族。でも私が死なないと、勇者は覚醒できずに死ぬかもしれない。
そんな悶々とした日々にも、突然終わりがきた。
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走って
走って走って走って
「手間をかけさせるな」
最悪、最悪中の最悪よ……!
心の中で悪態を吐きながら、飛んでくる魔法を避ける。
どうして忘れていたの!勇者パーティ内に裏切り者が居たことを……!
常に全身を鎧に覆われていた男は、今は魔族の証である角や鱗を露出させている。
魔法が足元に命中した、もう避けれない。
そして冒頭に戻る。
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“勇者の幼馴染”なんて称号しかない自分でも、足止めくらいはできて欲しかった。
「最後に言い残すことは」
他のパーティメンバー達はどこまで逃げれただろうか。
私の人生って何だったんだろうか。
これで勇者は覚醒できる、はず。
痛い、痛い、痛い
結局こんな役回りか。
「……そう、だから」
「このお話は、ここでおしまい」
何にもなれなかった、ただの少女の物語は。
意識が暗転する。
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「……ッ!」
寝返りを打とうとして、激痛で目が覚めた。
「テント……?」
消毒液の匂いと、包帯の感覚。少しガサガサした布団には見覚えがある。
生きている。でもなぜ。
「起きたか」
「……!」
私に致命傷を負わせた裏切り者が、悠々と入ってきた。
「一体何を……!?」
「騒ぐな傷に響く。まだ完全に治癒は終わっていない」
男は慣れた手つきで私に治癒魔法をかけ始めた。
空いた口が塞がらない。
「お前、よく仲間に寝物語を語り聞かせていただろう」
男は頼んでもいないのにポツポツと喋り始めた。
「焚き火の前でお前はいつも最後にこう締めくくった」
『このお話の続きは、また明日』
「明日への希望を持つことで、生き延びる確率を少しでも上げる。魔族とは違う、脆弱な人間特有の生き延び方だ。」
だが不思議と耳に残った、と男は続けた。
倒れ伏した少女が、命の消える瀬戸際で呟いた、
「このお話は、ここでおしまい」
それを聞いた瞬間体が勝手に動いた。
治癒魔法をかける。だが間に合わない。
「だから秘術を使ってお前を魂の番にした」
……
…………!
「ハア!!?!??」
「うるさい」
「うるさいって何よ!?何で私を!?」
「続きが知りたくなった」
「何の!??!?」
「お前が紡ぐ物語の」
頭がクラクラする……魂の番ってアレでしょ、想い合う2人の寿命を一緒にするとかいう秘術中の秘術でしょ……
それを物語の続きが知りたいなんて理由で、しかも何で私に……
頭を抱えていたら別の人物がテントに顔を出した。
「勇者!」
「起きたのか!体はどう?」
それから勇者に質問攻めをして判明したのは、戦いは全て終わったということだった。
魔王は敗北。魔族は散り散りに。
裏切り者である彼は、血だらけの私を抱えて人間の王に救いを求めたことでギリギリ恩赦を賜った。彼は元人間で、魔族とのキメラにされた被害者であることも要因だとか。
「あと君の魂の番だし」
「それ何とかならない?」
「無理だね、賢者も頭抱えてた」
苦笑する勇者と、うなだれる私。
2人を眺めていた元裏切り者は、かすかな笑みを口元に浮かべた。




