第3話 響き渡る絶頂詠唱と大討伐
「だ、だめぇ……っ! そんなに大きく口を開けて、迫ってこられたら……っ、私、もう、耐えられないぃぃっ!!」
森の最奥、大地を震わせる轟音と共に現れたのは、この地域一帯の生態系の頂点に君臨する『古代地竜』だった。
全長二十メートルを超える巨躯、鋼鉄をも容易く噛み砕く牙、そして周囲の魔力を強引に吸い寄せる圧倒的な質量感。
その威容を前にして、重戦士セリアは盾を構えながら、まるで純潔を奪われようとする乙女のような悲鳴を上げた。
「あぁっ、んんっ……! 地面が……地面の振動が、足の先から、内腿を通って……っ、お腹の奥まで、響いてくるぅ……っ! ひぅ、あはぁっ!」
セリアは必死に踏ん張っていた。
だが、巨大な竜が放つ威圧感が、彼女の過敏すぎる魔力器官を激しく愛撫する。
彼女にとって、強大な敵と対峙することは、全身を未知の力で弄ばれるような、抗い難い悦楽を伴う苦行なのだ。
「セリア、そのまま耐えろ! お前の防御力なら、その一撃は『気持ちいい』程度で済むはずだ!」
俺は特製のイヤーカフを調整しながら、冷静に指示を飛ばす。
俺の視界には、セリアの盾が竜の質量を完璧に受け流し、衝撃を魔力に変換して自身の筋肉にフィードバックさせている様子が、克明にデータとして表示されていた。
「はぁっ、はぁっ……っ、そんなこと、言ったって……っ! あ、あぁぁぁっ!! 来た、凄く太いのが……っ、芯まで、響くぅぅぅっ!!」
ドォォォォォン!!
地竜の巨大な前脚がセリアの盾を叩き潰さんと振り下ろされる。
凄まじい衝撃波が走り、周囲の立ち木がなぎ倒された。
だが、セリアはその場から一歩も退かない。
むしろ、盾を押し返す彼女の顔は、苦痛ではなく、激しい「昂り」に染まっていた。
「……っく、ふぅ……っ、んんっ! すごい……っ、今の、すごく強かったわ……っ! もっと……もっと激しく、私を叩いて……っ、めちゃくちゃにしてぇっ、あはぁんっ!」
戦場に響き渡る、あまりにも淫らな重戦士の挑発。
地竜ですら、その異様なまでの熱量を含んだ声に毒されたのか、爬虫類特有の冷徹な瞳を困惑に揺らし、動きを一瞬止めた。
「よし、ルミナ! 魔力充填率一二〇%。今だ、撃て!」
「……っ、ふぅ……っ、ふぅ……っ。だめ、もう、限界なの……っ。私の中に、入りすぎてる……っ、魔力が、こんなに、パンパンに……っ、んんっ、あぁっ!」
後方で詠唱を続けていたルミナは、すでに自力で立っていることすらままならない様子だった。
杖を抱きしめるようにして膝をつき、腰を激しくくねらせながら、口の端から銀色の糸を引いている。
彼女が魔力を集めるたびに、周囲の大気が甘く震え、桃色の光彩を放つ。
「い、いくわよ……っ、本当に出る……っ、全部、出しちゃうんだからぁっ!! 『絶頂破滅焔』ぉぉぉぉっ!!」
ルミナの絶叫と共に、杖の先から放たれたのは、全てを焼き尽くす極大の火炎放射だった。
それは魔法というよりは、溜まりに溜まった情動を爆発させた「放出」そのもの。
地竜の分厚い鱗を焼き、肉を焦がし、森の一部を文字通り消滅させるほどの威力だ。
「あ、あぁぁ……っ、んっ……はぁ……、空っぽ……空っぽになっちゃった……っ」
ルミナはその場に突っ伏し、痙攣するように肩を震わせている。
その背中は、大仕事を終えた後のような、形容し難い多幸感に包まれていた。
「ぐ、ぐあああああああっ!!」
だが、地竜もさるもの。半身を焼かれながらも、狂乱状態で最後の一撃を放とうと首を振り上げる。
「フィリア、最大出力のヒールをセリアに! 聖なる力で竜を浄化しろ!」
「はひっ、はいぃっ……っ! あ、あたたかいのが……っ、神様の、大きな力が……っ、私を、突き抜けていくぅ……っ、んっ、んあぁぁっ!!」
聖女フィリアが祈りを捧げると、彼女の体から溢れ出した聖なる光が、津波となって戦場を飲み込んだ。
それは癒やしの光であると同時に、邪悪な存在にとっては耐え難いほどの「過剰な愛」の波だ。
「あはぁぁっ、あぁぁっ! 入ってくる、入ってくるぅ……っ! 聖なる光が、奥まで、洗ってくれるぅ……っ、んんんっ!!」
フィリアの嬌声がこだまするたびに、地竜の動きが鈍くなっていく。
その神々しくも淫らな波動は、地竜の闘争心を根底から削ぎ落とし、その魂を強制的に「解脱」へと導いていた。
その時だった。
「お、おい! なんだ、この声は……っ! 一体、何が起きてるんだ……っ!?」
森の茂みをかき分けて現れたのは、ボロボロになった鎧を纏い、這う這うの体で逃げ出してきた勇者ガイルの一行だった。
彼らは低級魔物の群れに囲まれ、有能な前衛と後衛を失った代償を、その身を持って味わっていたらしい。
だが、彼らが目にしたのは、かつての仲間たちが、巨大な地竜を相手に「絶頂」しながら圧倒している、あまりにもシュールでエロティックな光景だった。
「せ、セリア!? ルミナか!? なんだ、その声は……! お前ら、こんな戦場のど真ん中で何を……っ、う、うっ!?」
ガイルは言葉を失った。
セリアの「もっと叩いて」という声、ルミナの「出ちゃう」という叫び、そしてフィリアの「あたたかいのが入ってくる」という祈り。
それらが、地竜の死に際の咆哮と混ざり合い、戦場全体を巨大な「行為」の最中のような空気感で支配していた。
ガイルたちの股間は、自分たちの意志とは無関係に、猛烈な勢いで反応を始めていた。
命の危険がある極限状態と、耳から入り込む極上の喘ぎ声。
その矛盾した情報の奔流に、彼らの脳はあっけなくパンクした。
「あ、あわわ……っ、なんだこれ、なんだこれぇっ! あいつら、あんなに凄かったのか……っ!? それに、あの声……っ、聞いてるだけで、こっちまで……っ!」
ガイルは剣を握る力すら失い、その場に膝をついた。
隣にいた魔法使いや僧侶も、顔を真っ赤にして鼻血を流し、朦朧とした表情で腰を浮かせている。
「トドメだ、セリア!」
「ええ……っ、わかったわ……っ! これで……っ、これで最後よぉぉっ、んあぁぁぁっ!!」
セリアが渾身の力で盾を叩きつける。
地竜の頭部が砕け散り、巨躯が大きな音を立てて崩れ落ちた。
勝利の瞬間。
森には、三人の少女たちの、重なり合うような、長く、甘い吐息だけが残された。
「……ふぅ。お疲れ様、三人とも。完璧な連携だったぞ」
俺はイヤーカフを外し、額の汗を拭った。
翻訳機能を通さない生の彼女たちの声は、確かに鼓膜に毒だ。
だが、その毒こそが、世界を救う最強の武器になる。
「あ……主、人公様……っ、はぁっ、んんっ……。私たち……うまく、できた……っ?」
セリアが、頬を上気させ、乱れた髪をそのままに俺を見上げる。
その潤んだ瞳には、俺への深い信頼と、充足感が溢れていた。
「ああ。最高だったよ。……さて、そこに転がっている『無能な元仲間』たちの始末、どうしようか?」
俺が冷たく視線を向けると、腰を抜かしたままガクガクと震えているガイルたちの姿があった。
彼らはもはや、声も出せないほどに「彼女たちの実力と色香」に完敗していた。
「あ、あう、あうう……っ……」
情けなく涎を垂らす勇者の姿に、セリアたちは、かつて自分たちを蔑んだ男への未練など、微塵も感じていないようだった。
「……別に、いいわ。あんな人たちのこと、もう、どうでも……っ、んっ、いいもの……っ」
セリアはそっと俺の腕に自分の豊かな胸を押し付け、甘えるように顔を寄せた。
「今は……ただ、貴方に、褒めてほしいの……っ、はぁっ、あぁっ……」
「わ、私も……っ、なでなで、してぇ……っ、んんぅっ!」
「私もぉっ、あたたかい言葉が、ほしいんですぅ……っ、あはぁんっ!」
三人の「有能すぎる変態」たちに囲まれ、俺は苦笑いしながら、彼女たちの頭を優しく撫でた。
俺たちの伝説は、まだ始まったばかりだ。
この艶やかな声が、やがて世界中のダンジョンを「汚染」していくことになる。
一方、放置されたガイルたちの耳には、いまだに彼女たちの喘ぎ声の残響が、呪いのようにこびりついて離れなかった。
彼らが再び冒険者として立ち上がる日は、おそらく二度と来ないだろう。




