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第2話 防音具と真の実力証明



「……本気、なの? 私たちのこの声を聞いて、正気でいられる人間なんて、今まで一人もいなかったわよ」


宿屋の一室。

重戦士のセリアが、疑り深い眼差しで俺を見つめていた。

彼女は椅子に座っているだけなのだが、その重厚な鎧に押し潰された豊かな胸元が、呼吸のたびに「ギチ、ギチ……」と艶めかしい音を立てている。


「ああ、本気だ。君たちの声は、俺にとっては最高の勝利の旋律メロディにしか聞こえないからな」


俺がそう答えると、隣にいた魔導師のルミナが、びくりと肩を跳ねさせた。


「そ、そんな……っ、はぁっ、んんっ……。嘘よ……っ、だって、みんな、私たちの声を聞くと……顔を真っ赤にして、逃げるか……それとも、変な目で、見てくるんだもの……っ、ふぁっ!」


ただ喋っているだけなのに、彼女の喉からは甘ったるい吐息が漏れる。

その湿った響きは、まるで耳元で愛を囁かれているかのような破壊力を持っていた。


「それは、彼らが無能だからだ。音に惑わされて、本質を見失っているだけさ」


俺はテーブルの上に、三つの繊細な細工が施されたイヤーカフを並べた。

俺の付与術エンチャントを注ぎ込んだ特製の魔導具だ。


「これは……?」


聖女のフィリアが、おずおずと手を伸ばす。

指先が銀の細工に触れた瞬間、彼女の唇から「あぁっ……」という短い、だが粘着質な嬌声がこぼれ落ちた。


「俺専用の『翻訳機』兼『防音具』だ。これを付けている限り、俺の耳には君たちの声が『正常な戦闘報告』として変換されて届く。君たちがどれだけ激しく喘ごうが、俺の頭には『魔力充填率八〇%』とか『右前方から敵接近』という情報として処理されるんだ」


「そんなことが……可能なの……っ? んっ、あはぁっ……!」


セリアが驚きに目を見開く。

その拍子に、彼女の引き締まった腹筋が動き、防具の隙間から「くぅっ、んんっ!」という、まるで責め立てられているかのような声が漏れた。


「ああ。君たちの声がエロいのは、魔力の波長が音波に干渉しているからだ。なら、その干渉を取り除いて、純粋な魔力情報だけを抽出すればいい。……論理的だろう?」


俺は平然と言ってのけた。

実際、俺の視界には、彼女たちの全身から溢れ出す虹色の魔力の奔流が、はっきりと「データ」として見えている。


「信じられない……。私たちの、この呪われた声を……そんなふうに受け止めてくれるなんて……っ、ひぅ、あぁっ!」


ルミナの目から涙が溢れる。

その泣き声は、まるで絶頂の最中に慈悲を乞うような、あまりにも淫らな響きだった。

だが、俺は眉ひとつ動かさない。


「呪いなんかじゃない。それは才能だ。……さあ、行こうか。君たちの本当の価値を、ギルドの連中……そして何より、君たち自身に証明させる時間だ」


---


場所は、街の近くにある「嘆きの森」。

普段は初心者向けの狩場だが、最近は強力な魔物が出没するという噂がある場所だ。


「セリア、前へ。ルミナは後方で詠唱準備。フィリアは俺の隣で待機だ」


俺の指示に従い、三人が動く。

その瞬間、森の静寂が「淫らな喧騒」へと一変した。


「はぁっ、はぁっ……! 来るわよ……っ、んっ、あぁっ! 大きな、太いのが……二匹もぉっ!!」


セリアが盾を構え、突進してくる大型のワイルドボアを迎え撃つ。

彼女が踏ん張るたびに、鎧の継ぎ目から「んんっ、あぁんっ!」という、腰が砕けそうなほど甘い声が森に響き渡る。


普通の指揮官なら、この声を聞いた瞬間に股間を抑えて蹲るだろう。

だが、俺の耳には「敵、ワイルドボア二体。正面より突進。ガード成功率九八%」という冷静な音声ガイドが流れていた。


「ルミナ、極大魔法の準備。出力最大でいい」


「わ、わかったわ……っ、ふぅ、ふぅ……っ! あ、集まってくる……っ、魔力が、私の、中に……っ、どんどん、入ってきてぇっ、んぅっ、はぁああああっ!!」


ルミナが杖を掲げると、周囲の魔力が渦を巻いて彼女の体に吸い込まれていく。

そのプロセスは、彼女にとって強烈な「感覚」を伴うらしい。

彼女の細い体は小刻みに震え、膝はがくがくと笑い、顔は真っ赤に上気している。


「あ、あぁっ……! もう、だめ……っ、はち切れちゃう……っ! 出る、出ちゃうぅぅっ!!」


その絶叫と共に、ルミナの杖から純白の閃光が放たれた。

ドォォォンッ! という爆音と共に、二体のワイルドボアは跡形もなく消し飛ぶ。


「……ふぅ、ふぅ……っ、んっ……はぁ……」


ルミナはその場にへなへなと座り込み、事後のような荒い息を吐きながら、虚空を見つめている。

その様子は、どう見ても魔物退治をした直後の冒険者ではなく、激しい行為を終えたばかりの女のそれだった。


「完璧だ、ルミナ。魔力変換効率は驚異の九五%。これほどの威力を、これほど短時間で練り上げられる魔導師を、俺は他に知らない」


俺が淡々と賞賛を送ると、ルミナは驚いたように顔を上げた。


「……怖くないの? 私の、この……狂ったみたいな声……っ、んんっ」


「怖い? まさか。君の声は、世界で一番純粋な『勝利の予兆』だ。誇っていい」


俺の言葉に、ルミナの頬がさらに赤く染まる。

今度は魔力のせいではなく、純粋な照れによるものだ。


「さあ、次が来るぞ。今度は数が多い。セリア、全力で引きつけてくれ。君の『声』でな」


「えっ……? 声で、引きつける……っ? んっ、あぁっ!」


「ああ。君たちの声には、魔力の波動が含まれている。それは魔物にとっても、強烈な誘惑……あるいは精神汚染として作用するんだ。……つまり、君たちは立派な『広域挑発ヘイトスキル』の持ち主でもあるんだよ」


俺の推測は正しかった。

セリアが「あぁっ、んんっ! もっと……もっと強く叩いてぇっ!」と盾を叩きながら叫ぶ(本人は必死の防戦である)と、周囲の魔物たちが一斉に、どこか陶酔したような表情で彼女へと群がっていった。


魔物たちは戦うというより、その「声」の源に吸い寄せられているかのようだ。

隙だらけになった魔物たちを、ルミナの魔法が次々と蹂躙していく。


「あたたかい……あたたかい力が、みんなに……っ、んっ、はぁっ、あぁぁんっ!!」


後方では、フィリアが回復魔法を連発していた。

彼女が魔法を放つたびに、聖なる光が降り注ぎ、同時に「絶頂の嬌声」が森の木々を震わせる。

傷が癒える快感と、彼女自身の放出する快感がリンクし、戦場はもはや別の意味での「桃源郷」と化していた。


だが、俺の指揮は冷徹だ。

一切の動揺を見せず、彼女たちの「音」を情報として処理し、最適な一手を選び続ける。


やがて、森に静寂が戻った。

足元には、数十体の魔物の死骸。

そして、その中心で、荒い息を吐きながら立ち尽くす三人の美少女。


彼女たちは、自分たちの手を見つめて震えていた。


「私たち……勝ったの……? 一度も、笑われずに……っ、蔑まれずに……っ、んっ、ふぁっ」


セリアが、潤んだ瞳で俺を見る。


「ああ。君たちは最強のパーティーだ。……俺が保証する」


俺がそう告げた瞬間、三人は同時に俺に抱きついてきた。


「あぁっ、んんっ! ありがとう……っ、ありがとうぉっ!!」

「はぁっ、んっ、んんぅっ! 信じて、よかったぁ……っ!」

「あはぁっ! だめ、うれしすぎて……っ、出ちゃう、何かが出ちゃうぅっ!!」


三人の異なるトーンの喘ぎ声が、俺の全身を包み込む。

イヤーカフを通しても防ぎきれない、生の肌の温もりと、濃厚な雌の香気。

そして、耳元でダイレクトに響く、暴力的なまでの色香を孕んだ声。


「……おい、離れろ。さすがにそれは……『翻訳』しきれない」


俺の冷静な仮面が、初めて少しだけ崩れた。


一方その頃。

彼女たちを追放した勇者ガイルのパーティーは、同じ森の反対側で、一匹のゴブリンを相手に大苦戦を強いられていた。


「くそっ、なんでだ! なんでヒールがこんなに遅いんだ!」

「だって、聖女様みたいに『あたたかいのぉぉ!』って気合が入らないから……」

「魔導師! 魔法はまだか!」

「……出す時の『あの感じ』がわからなくて、不発ばっかりで……」


有能な「エンジン」を失った彼らに、再起の道は残されていない。


「さあ、行こう。次は……もっと大きな『声』を、世界に響かせてやるんだ」


俺は、顔を真っ赤にしながらも晴れやかな表情の三人を見つめ、静かに笑った。

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