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音痴聖女  作者: 高野倉けいし


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3/4

農場での生活

 農家の朝は早い。

 マリーが身支度を終えて食堂へ向かうと、すでに朝食は用意され、早い者はもう仕事へ出かけている。

 初見の時にも大きな家だと思ったが、3階建てのこの農家は想像より広く、多くの人が暮らしている。そのうちの大半は子供達だった。身寄りのない子供が多く、元大聖女のエマが迎え入れたとのこと。子供でもできる仕事を皆でしていた。


「おはよう、マリー姉ちゃん!」

「今日はお姉ちゃんの隣で食べたい」


 幼い子らはすぐにマリーに懐いた。朝から食堂は大変賑やかだ。

 マリーも皆と同じように、朝食をいただく。今日の朝食は焼き立ての丸パン2つと畑で取れた野菜のサラダに目玉焼き。飲み物は好きなものを自分で選ぶスタイルで、マリーはしぼりたての牛乳と自家製のお茶をいただくことにした。

 王都の教会にいるときは規律が厳しく、一日の予定は決められていてマリーの意思は関係なかった。しかし、ここでは自分で考えて行動しなければならない。

 例えば、今日着る服は何色にしようとか、食事のときの飲み物は何にするとか、今日の巡回の順番はどうするかなど。最初は戸惑った。「どうでもいいです。なんでもいいです」と答えるマリーにエマはその度に自分で決断しなさいと言い聞かせた。

 そうしているうちに、自分は淡い色が好きだとか、飲み物は薄味が好きだとか、自分の仕事の効率のいいやり方などがわかるようになっていった。


 マリーの仕事は聖歌を歌いながら畑を回る事。

 広大な麦畑や畑のあぜ道を歩きながら歌う。鶏や牛などの家畜に向かって歌うこともある。

 聖女の歌にははっきりとした力はない。病気の治りが早いとか、天候がよくなるとか、よくわからないがなんとなくいいことが起こるようなとても曖昧なものだ。

 歴史には聖女による神の奇跡の話がいくつかでてくるが、それもどこまで本当なのか分からない。

 しかし、現実に大聖女のエマがこの農地へ来て、歌を歌い、植物に聞かせることで、毎年豊作になった。農民は病気もなく皆が健康だった。農民からすると農場に二人も聖女が来てくれて大歓迎だった。


 マリーもエマと同じように歌を歌いながら畑を回る。

 初めてマリーの歌を聞いたとき、農民は


「うーん……」

「聖歌ってこんな歌だっけ?」

「まあ、得意不得意誰でもあるさ」


 と、苦笑いをしてた。


 最初は自分の下手な歌で逆に作物の生育が悪くなったらどうしようなどと考えて、小さな声で歌っていた。そのうち、誰からともなくマリーの歌に合いの手が入るようになり、時にはハモリ、時には一緒に歌って合唱のようになっていった。国の繁栄を願う聖歌の歌詞も、いつの間にか畑の繁栄を願う歌詞の替え歌になったりして、子供も大人も歌いながら働いた。

 農場に来て数年が経ち、マリーの歌は相変わらず下手だったが、声は大きくなり、笑顔が増え、毎日楽しく暮らすようになった。このまま、楽しい毎日が続いていけばいいなとマリーは思った。


 しかし、その日常は少しずつ変化していく。

 ある日、戦争が始まった。

 まずは王都から日常が変わっていく。そして国土全域に広がっていく。

 もちろん、マリーが暮らす農地にも変化が。


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