農場
マリーは王都を離れ、国立の農場にやってきた。
広大な麦畑の真ん中に赤い屋根の3階建ての農家があった。建物は古いが大きな家だと、マリーは感じた。倉庫やサイロが隣接している。
案内人に連れられて向かった先はこの農場の責任者のところ。そこでマリーはとても驚いた。数年前に引退した大聖女がいたのだ。
「大聖女様がどうしてここにいらっしゃるのですか?」
大聖女は聖女の長として長年勤めていた方だ。マリーは直接話しなどしたことがないくらい高貴な方だ。数年前に今の王権に変わったのをきっかけに、高齢ということもあって引退された方だった。
引退後は国の支援できっとどこかで穏やかにゆっくり余生を楽しまれていると、誰もが思っていただろう。まさか、こんな農場にいるとは。
かつて大聖女だった老婆はしわしわな笑顔で、驚くマリーを優しく同じテーブルの席に座らせ、紅茶と菓子を勧めた。
かつての大聖女だった老婆とマリーはゆっくり時間をかけて話をした。
先代の王が急死し、今の若い王が王座についたとき、大聖女という立場から色々と助言をしたが、それを疎ましく思われ、お表向きには引退という名目で農場へ追放されたのだという。
話を聞いて怒るマリーに対して、老婆はここの暮らしは気に入ってると言った。
「あなたは歌が原因で追放されたと聞いたけど、ちょっと歌ってもらえる?」
大体の話を終えたて、老婆はマリーに歌を聞かせて欲しいと言ってきた。
マリーは一気に緊張する。
椅子からゆっくり立ち上がり、テーブルから少し離れた場所に立って、歌い出した。
音程がはずれ、か細い声しか出ず、リズムがずれた。汗が吹き出し、お腹の前で組んでいる両手に力が入る。足が震えているのが分かって、意識すると、声が盛大に裏返った。恥ずかしさで顔が赤くなるのが分かった。
「はい、もういいわよ。ありがとう」
老婆はまたマリーに椅子に座るように促す。
「すみません、わたし、歌が下手で……」
聖女のくせに歌が下手だと叱られないか、マリーはビクビクしていたが、老婆は優しく微笑む。
「なぜ、我々が聖女だと言われるのか、それは歌うことで神の奇跡が起こせると思われているから。歌が上手い下手は関係ないです。あなたには十分神の奇跡を起こせる力があると思いますよ。」
老婆の言葉でマリーは無意識に入れていた肩の力を抜く。
「ここは王都から離れた農場だけど、豊かな土地で毎年豊作なのよ。あなたにも働いてもらうわよ」
「大聖女様……」
「大聖女ではなくエマと呼んでちょうだい。ここのみんなもそう呼んでいるわ」
「はい、エマ様」
そうしてマリーはこの農場で暮らしていくことになった。




