第1話 「社畜、死亡。そして女神にバグを押しつけられる」
目覚めた瞬間、俺は満員電車の車輪に挟まれていた――はずだった。
ブラック企業で連続七十二時間労働、そのまま意識を失いホームへダイブ。
だが次に目を開けた場所は、真っ白な謁見ホールだった。
「お疲れさまでした、和泉陽斗さん!」
声の主は、銀髪に金の瞳、背中にふわふわの羽根というテンプレ女神。
しかし目の下にはクマ、手に抱える書類は山積みで……どう見ても激務。
「いや、俺より先にあなたが休めよ……」
思わずツッコミを入れると、女神――リュミエルと名乗った――は涙目で訴えてきた。
「管理してた下界がブラックすぎて、転生受付も人手不足なんです!
なので陽斗さん、**“モブ村人A”**として異世界で新しい人生をお願いします!」
転生特典? もちろんあるらしい。
しかしリュミエルが差し出した候補一覧はこうだ。
1.神速剣(受付終了)
2.賢者の叡智(受付終了)
3.チート商才(受付終了)
全部埋まってるじゃねぇか!
「すみません……残ってるのは**《成長ログ》**だけで……」
ネーミング地味すぎワロタ。
だが説明を聞くうち、俺は確信する。――コレ、隠れチートだ。
・全ての経験を数値化して可視化。
・同じ行動を繰り返すほど習熟度ブースト。
・さらに他人の“ログ”を読むことで、天才の技術をコピー可能。
ゲームで言えば自動攻略Wikiを頭に内蔵してるようなもの。
選ばない理由がない。
「《成長ログ》、いただきます」
「ありがとうございます! これで本日のノルマ達成です!」
女神はスタンプカードに**“1/100000達成”**と捺し、ぶっ倒れた。
俺は白い光に包まれ、転生先へと落下していく。
⸻
――そして目を開けたら、草むらの上。
着ているのはボロいリネン服。手足はひょろい。HP10、MP3、ステータスは文字通り雑魚。
だが視界の右上に半透明の窓が浮かぶ。
【成長ログ:起動】
行動:深呼吸 ×1 → 肺活量 +0.001
感情:新天地へのワクワク ×1 → やる気 +0.1
おお、本当にログが走ってる!
「よし、まずは飯と寝床だな。ログを稼ぎつつ素材を集めるか」
その瞬間――
“近くの草原兎があなたを警戒しています”
小動物ごときにビビってる場合じゃない。
けれど俺の手には、草むらで拾った小枝のみ。レベル1・村人。
大丈夫、ログは嘘をつかない。
雑魚キャラだって、積み重ねれば最強になる。
そうして俺の成り上がりロードが、今ここに始まった。