第三話 再会
私は、ビルの入口に貼られた張り紙を何枚かの写真に収めた。
そして、何の考えもなく、それをインスタのストーリーにアップした。
《リストラなう。仕事ください( ✌︎'ω')✌︎》
画面の中だけでもポジティブを演じることで、
自分がまだ“余裕”のある人間なんだと思い込もうとしていた。
強がりと冗談の境界線なんて、もはや自分でもわからなかった。
ぼんやりとスマホをいじりながら、次の予定もないまま駅のベンチに座っていた。
投稿から数十分後、ポケットの中でスマホが震えた。
「ピコン」と鳴った、
RIKU@
通知欄に見覚えのある名前
──〈なあ、暇?〉
一瞬だけ迷ってから、既読をつけると、すぐに返信が飛んできた。
──〈どうせ今ヒマしてんだろ。ちょっと手伝ってくれない?人手不足でさ〉
──〈金、必要だろ?〉
その一言が、喉の奥にひっかかって仕方なかった。
ムカつくけど、否定できない。
名前は、二俣陸。
中学以来の幼馴染で、親が会社経営をしていて、昔から金には困ってなかった。
高校の頃にはすでに自分用のパソコンを3台持ってて、
大学では車で通学してたっていう、筋金入りのボンボン。
現在は会社経営しながら、YouTubeチャンネルを副業で運営しているらしい
登録者は2万人ほど。本人曰く「趣味の延長」らしいが、編集も撮影も地道にこなしていて
ちゃんと登録者2万人抱えてるあたり、本当に器用な男だ。
正直、あまり関わるつもりはなかった。
でも、「金、必要だろ?」という一言が、今の私には痛いほど刺さった。
そして、私はスマホの画面に、たった三文字だけ打ち込んだ。
──〈いいよ〉
──〈今日の18時、迎えに行くわ。準備しといて〉
二俣からの返信は、いつだって一方的で、決定事項みたいに押し切ってくる。
「行けそう?」とか「大丈夫そう?」なんて気遣いの言葉は一切ない。
昔からそうだった。
上から目線ってわけじゃない。むしろ、自分が動くのが早すぎて、人を待てないだけ
「経営者って、だいたいフットワークが軽すぎる!」
だけど、そういう人間が結局のところ上手くやっていくんだろうなとも思う。
返信の時刻を確認して、思わず声が漏れた。
「……2時間後かよ!!自宅に帰ってお風呂入る時間ないじゃん」
こんなときに限ってみんな急。
人生のどん底って、案外、待ってくれないものらしい。