第ニ話 生きるって難しい。
美容業界で話題とされていた大手サロン「ミルクティプラチナム」は、突然の倒産をもってその幕を下ろした。
破格の料金設定と見た目重視の内装。
それらの裏側で、経営はすでに限界を迎えていたという。
社長が売上の大半を特定のキャバクラに注ぎ込んでいたらしい在職中にも耳にしていた。
あくまで“噂”の域
最初は笑っていたし、誰もがどこかで「まさか」と思っていたはずだ。
顧客は多く、予約はいつも埋まっていた。
業界でもそれなりに名の知れた“大手”という肩書きがあった。
この規模で倒産という二文字をニュースで見たときの衝撃は、簡単には言葉にできなかった。
私はいま、勤めていたビルの前に立っている。
正面入口のガラス扉には、A4サイズの紙が一枚、斜めに貼り出されていた。
《スタッフへ 本日をもって、ミルクティプラチナムは全店舗の営業を終了いたします。詳細は後日ご連絡いたします。》
「ふざけんな!!開けろおおお!!!」
口には出さなかったが、心の中では叫んでいた。
黒インクで打ち出されたその文章は、妙に淡々としていて、現実味がなかった。
何度読み返しても、そこに「倒産」や「失職」といった言葉が書かれているわけではないのに、その意味するところは明白だった。
目の前の張り紙をにらみながら、
この先、どう生きろっていうの?
家賃の引き落としは明日。
カードの支払いは来週。
なのに、どうしてこんなときに限って給料日前なんだよ!!!なんで。今なんだよ!!
静かな街の音にかき消されるように、胸の内側でだけ、自分の怒鳴り声が響いていた。