第一話 トラブルは突然に
え……うそでしょ
スマホの画面に映るのは、見慣れた会社のロゴと、どこか他人事のようなアナウンサーの声だった。
『大手美容サロン「ミルクティプラチナム」が本日、倒産を発表しました。給料の未払いに怒りの声をあげています』
『ほんと、ふざけてますよね!』
『こっちだって生活がかかてんだから!』
『おい!責任者でてこい』
『給料がまだ未払いなんです。こんな形で終わるなんて、ありえないです泣』
そこには、つい先週まで一緒にランチに行っていた受付の先輩達
そして、経理でいつも文句を言っていた営業の同期が、マイクに向かって文句を言っていた。
無意識に指が震える。
「これ、夢?冗談じゃないの?」
3日間の有休をもらって、実家の岩手に帰省していた。
日々の喧騒から離れた、静かな時間だった。
精神的なリセットというものがあるとすれば、まさにそれに近かった。
「お土産も買ったし明日からは、また社畜に戻ろう」と、そんなふうに思える程度には整っていた。
東京行きの新幹線に乗り込み、イヤホンを付けて暇つぶしに動画アプリを開いた。
最初に目にしたのがニュースの広告
『大手美容サロン「ミルクティプラチナム」が本日、倒産を発表しました。従業…』
見覚えのある職場のビル、制服が映った。
画面の中では、見知った先輩たちが、記者のマイクに向かって何かを訴えていた。
「ちょっと待って、私、明日から出勤予定なんだけど?!」
たった三日間のあいだに、世界が変わることはある。
その典型例を、私は動画越しに知ることになったのだ。
目の前の事実を咀嚼するまでに、少し時間がかかった。
騒がしい春休み中の大学生らしいグループの笑い声、サラリーマンの電話の通話音、車内販売のアナウンス。
ただ騒がしいだけだった車内が、急に遠くなったように感じた。
他人の笑い声やアナウンスが、無関係な世界のもののように響く。
意識だけが現実に取り残されて、私は新幹線の座席で、生きた心地がしなかった。
「明日からまた頑張ろう」
そう思えたのは、たった数分前のことだったのに。