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5日目

「やっほー、好璃」

「やっほー。おねーちゃん、今日もおねがいしまーす」


 少女はしゃがんでから少年に言う。


「はい、お願いされましたー」


 少年は2日目から、少女に運んでもらっている。その方が2人で歩くより速いのだ。


「今日で好璃と会って5日目かー、はやいねー」

「もうすぐで、絵、かきおわるよ」

「それは楽しみだねー。好璃、描きかけでもいいって言っても、見せてくれないもん」


 しょうがない。少年は未完成のものを人に見せるのが嫌いだ。


「今日か明日にはできるから」

「楽しみにしてる。はい、着いたよー」

「ありがと」


 少年は少しそわそわしている。


「好璃、今日どうしたの?もしかして、もう描けた?」

「ち、ちがう!まだ!」


 嬉しそうに覗き込んできた少女の視線から隠すように、太ももにのせていたスケッチブックを抱き寄せる。


「あ、あのね。これ、プレゼント」


 少年は胸ポケットから栞を取り出す。


「もしかしてガーベラ?ピンク色だったんだ」

「お父さんたちと作ったの」

「そうなんだ…。ありがとう、嬉しい!」


 笑顔の少女に、少年は照れ笑いを向ける。


「ガーベラって大きいのに、よく作れたねー。どうやって作ったの?」

「ぼくもよく分からないんだけど、カッターとか、ナイフで後ろの方切るんだって」

「ほぉー、すごいねー」


 少女は栞をじっくり眺めたり、裏返したりとしている。


「お母さんがもったいないって言ったら、お父さんが作るかって張り切ってた」


 他人事のように少年は言う。


「好璃はそんな乗り気じゃなかったの?」

「んー、だって知らない人からもらったお花をのこしても…」

「知らない人…誰から貰ったの?」


 少年は当て嵌まる言葉を探す。


「…クラスの人?」

「初対面だったの?」


 少年は頷く。


「ほー、確かに初対面だと、気まずいねー」


 また少年は頷いてから言う。


「去年もね、クラスの人が来て、花をもらったの。『仲良くしようね』って言われた。さいしょは月に一回ぐらいに来てたんだけど、だんだん来なくなってね…。先生に言われたから来たんだなーって」


 笑いもせず、他人事のように話している。


「いやーでも、来てくれてるんだから、仲良くしなきゃ。今回は違うかもしれないよ?」


 少年は顔を変えずに「そうだね」と言った。なんだか、もう帰りたくなった。ゆっくりと少年は立ち上がり、口を開こうとする。だが、それよりも早く少女が口を開いた。


「…じゃあ!好璃はいらないから、私にこのガーベラの栞くれたの?」


 心外な言葉に思わず少年は反論する。


「ちがう!その栞は、一番上手にできたから…」


 最後の方はもごもごさせながら言うと、少女はふわっ、と笑った、


「ふふ、ありがと。じゃあそれでいいじゃん。この花は今、私の大事な物になった。好璃との大事な思い出になった」

「うん」


 少年は微笑んで頷く。


「まーまー、座りなさいな。それとさ好璃、もしかしてこの栞お揃い?」


 少年は少女の隣にまた座り直し。今度は照れながら頷く。


「なくさないでね」

「なくさないよ!大切にする」


 少女は慎重に胸ポケットに栞を仕舞った。もう鉛筆を動かしている少年に、少女は問いかける。


「言いたい事、まだあるんじゃない?」


 少年は驚く。


「なんで、分かったの?」

「なんとなくかなー」


 少女は少年が口を開くのを、優しい顔で待っていた。


「あの、ね。4日後に手術があるの…。それが、こわい」

「そっか…手術か」

「おねーちゃん。病院まで来てくれる?」

「ごめん、好璃。私、病院には行けない」

「そうだよね…。うん、だいじょうぶ」

「私は手術したことないからわからないけどさ。今のうちに怖がっとけばいいんじゃないかな。怖がってても、いざその時!ってなったら、想像してたより怖くないかもしれないじゃん?」


 少女は少年の頭を撫でる。


「…うん」

「それに、おねーちゃんの分まで生きるんじゃなかったの?」


 息を吐き出すように、少年は笑う。


「おねーちゃんに言われると、どっちか分からなくなるね」


 少女は泣きそうな顔で笑う。少年はその笑顔に気づかない。


「あと、ね。手術の前になんか、いろいろと検査とかあるから…。明日はだいじょうぶだけど、それからは来れなくなる」


 寂しがっているのがバレないよう、少年はスケッチブックに目を落とし、鉛筆を動かす。


「それは寂しいねー。ハグでもしとく?」


 少年に向かって両手を広げる。


「し、しない!」

「もー、好璃は素直じゃないんだからー」


 今度は照れている顔が見られないように、スケッチブックで顔を隠した。



 がく、がく、と視界が揺れている。少女の背中に乗っているからだ。ねぇ、と少年は顔の見えない少女に呼びかける。


「どーしたの?」


 恥ずかしいのと、少しの不安もあったが、思い切って少年は言う。


「あの…あのさ!絵、かきおわっても、会ってくれる?」

「んー…気分次第かな~?」


 笑いながら少女は答えた。


「いたっ。も~、反抗期かー?」


 少年が少女の背中に頭突きをしたのだ。はぐらかす少女に少し、いらだった。

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