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6話【ガリッドは企みをする】


「ちっ、あの店。ろくな装備がなかったな。三次試験に向けて、色々買い揃えるつもりが当てが外れたぜ」


 酒場の片隅で、どっかりと椅子にもたれかかりながら悪態をつく男がいた。


 B級冒険者ガリッド。


 炎のような赤い短髪と、かなりツリあがった目が印象的な男だった。


「まあ仕方ないんじゃなーい? なんかあの店、安さだけがウリみたいだったし」


「そのようですね。もう少し金に余裕があれば、あんな店には行かなかったのですが」


 ガリッドの対面に座るのは、彼の仲間であるラミリネとロンブルス。


 ラミリネは化粧をしながら、ケラケラと笑う。


 ロンブルスは自前の弓を乱雑に拭きながら、嘆息する。


「チッ。なんだよ。二次試験免除祝いに、高い酒を飲みまくったのをまだ怒ってんのか?」


 ガリッドは舌打ちをしつつ、ロンブルスを睨み付けるが。


 ロンブルスはどこふく風で、弓の手入れを続ける。


「過ぎたことに対して、あれこれ言いたくないのですが。アナタは我々のリーダーなんですから、もう少し先を見据えた行動をお願いしたいですね」


「ンだとコラ。こまけー事をグチグチと。なんならテメーもパーティから外してやろうか」


「できるものなら、どうぞ。そうなれば僕は、今日の二次試験を通過した有望株に声をかけてパーティを再編成するだけですし」


「なっ、なんだと!」


「ちなみに。一次や二次とは違い、三次試験ではS級冒険者様が試験官を任されます。身勝手な理由でのパーティメンバーの解雇は、その試験官の心証をかなり悪くすると思いますが?」


 ガリッドは拳を握りしめ、酒場を叩き壊しそうな勢いだったが。


 ロンブルスは、フンと鼻を鳴らして冷ややかな目線を返すのみ。


 ラミリネはというと、興味なさげに窓の外を眺めてあくびをしていた。


「やめだ。仲間うちで争っても仕方ねえ。しばらくは安酒で我慢してやるさ」


 先に折れたのは意外にもガリッドだった。


 拳を開き、隣のテーブルに運ばれてきたエール入りの小樽をかっさらうと、一息に飲み干した。


「そうですね。 二次試験が免除になったおかげで、せっかく丸一日空きがあるんです。もっと有意義に時間を使いましょう」


 それを受けてロンブルスも、隣のテーブルで呆気にとられている客に銅貨を一枚渡しておいた。


 そうした横柄な態度にも、その客は文句をつけることはなく愛想笑いをしていた。


 酒場にいる他の客も理解していた。


 むしろ彼らのそうした態度こそが、新たなA級冒険者となるパーティの凄みなのだと。


 おかげで非難どころか、羨望の眼差しすら向けられるほどだった。


 そんな場の雰囲気に、ようやく機嫌をなおしかけたガリッドだったが。


「あれ? ちょっとねえ! あれ見てよ!」


 ラミリネのキンキンした金切り声に、辟易させられる。


「ンだよ、うっせえな。酒ぐらい静かに飲ませろよ」


「で、でもさ! あれ! あれ!」


 ラミリネの指差す先には、先ほど自分たちが訪れていた武器屋があった。


 そこで何やら話し込んでいるのは、大柄な体格の、オークと見紛う図体の人物。


 その姿にはガリッドもロンブルスも見覚えがあり、目を丸くする。


「ドンドじゃねーか! あの野郎、生きてやがったのか」


「だよねだよねー! 絶対あのあと、野垂れ死んだと思ってたのに!」


「驚きましたね。まさかとは思いますが、一次試験を通過したのでしょうか」


 そりゃないだろう、と思いながらもガリッドは耳をすませる。


 それはかつて盗賊稼業をしていたときに培ったスキルで。


 遠くの人間の話し声でも、本気を出せばこうして聞き耳を立てることができるのだった。


『つまり……格安で……装備品を……』


『これで、二次試験……なんとかなる……』


 集中し、ガリッドはドンドと見知らぬ男との会話を拾い上げる。


 断片的にしか聞き取れなかったが、それだけでも充分だった。


「マジかよ。やっぱりあの野郎、二次試験の準備をしてるみたいだぜ」


「うっそー! あいつが一次突破なんてぜーったい無理だって、なにか不正でもしたんじゃない?」


「ふむ。あの木偶の坊が単独で試験をこなせたとは思えません。おそらく、他のパーティに加入させて貰ったのでしょう。一次試験はリーダーさえオーブを入手していれば、仲間も合格というルールでしたからね」


 半信半疑といったガリッドとラミリネだったが、ロンブルスの冷静な見解に納得する。


「なるほどな。それなら納得だぜ、まったく運のいいやつだ」


「キャハ! 土下座して靴でも舐めたのかな? 見てみたかったかもー」


「フッ、何にせよ。そんな運も長くは続かないでしょう。二次選考で落ちる方に銀貨を一枚賭けますよ」


「おいおい、それじゃ賭けにならねーって」


「言えてるー。この国の冒険者みんなに聞いても、落ちる方に賭けるよねぇ」


「うーむ、では二次試験の途中で怖気づいて逃げ出す、に改めて賭けましょうか」


 そんな風にゲラゲラと下品に笑い、低俗な話に花を咲かせる三人だったが。


 やがてガリッドはフンと鼻を鳴らし、もう一度武器屋のほうを眺める。


 ドンドは既に中に入ってしまったようで、さすがにもう声を聞き取ることはできそうもなかった。


「でもよ。ドンドの野郎、試験に落ちた腹いせに俺達の悪評を広めたりしねえだろうな」


「だいじょぶじゃな~い? あいつにそんな度胸ないでしょ。キャハハ」


「仮にそんなことをしても、僕達へのやっかみと捉えられて終わりですよ」


 ふたりの言葉を受けても、ガリッドは納得しきれていなかった。


 多少の粗暴な行動は、試験官の耳に入っても冒険者同士のトラブルとみなされ大事にはならない。


 だが、あまりにも目に余る犯罪行為をしたり、卑劣すぎる手段を試験で用いたことがバレれば、


 たとえ最終試験を突破しても、合格取り消しになることがあることをガリッドは知っていた。


「……とにかく、あの野郎が二次試験でくたばっちまうのが、一番いいんだよな……」


 ぶつぶつと何やら独り言をつぶやいていたガリッドだったが。


 やがて、ニタリと意味深に口角を釣り上げる。


「おい、ふたり共。ちょっと耳貸せ」


「「?」」


 ガリッドは身を乗り出し、ふたりに今しがた閃いた最高の思い付きを囁くと。


 ラミリネは目を輝かせ、ロンブルスも不敵に口元を歪ませた。


「キャハ! イイネ! それすっごく面白そー!」


「ふっ。三次試験に向けて、いい肩慣らしにもなりそうです。乗りました」


「決まりだな」


 言うが早いか、三人はそのまま酒場を後にした。




 その場に居合わせていた客たちは、漏れ聞こえてくる話に対しても我関せずな調子であったが。 


 ドンドという冒険者がどんな悲惨な目に遭うかという賭けで、そのあとしばらく盛り上がるのだった。



筆が乗って来たので書き続けるつもりでいますが、

評価やブックマークをしていただけると、モチベーションがあがります。

よろしくお願いいたします。

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