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43話【神工鬼斧】



 ドンドは他の受験者たちが思うよりも、自身が追い詰められていると感じていた。


 一見すると巨木ゴーレムは、ただ力任せに腕や脚を振るっているかのように思えたかもしれない。


 だが対峙しているドンドにはわかっていた。


 時折、腕の一本をフェイントに使って攻撃してきたり、インパクトの瞬間にわざと全身を傾けて破壊力を増大させようとしたりと、思った以上に相手が戦いに創意工夫を重ねていると。


 しかし相手に知性があるというのは、ピンチであると同時に相手の思考から動きを読むことができるチャンスとも言えた。


(勝つ! 勝てば、ゴーレムを全て撃破したことになる。試験は終了して、受験者全員が地上に戻ることが出来る)


 ドンドは自分でも不思議だった。


 瀕死のガリッドを目にしたとき、見捨てるという気持ちが微塵も湧かず、一刻も早く治療しなければとさえ思っていたことに。


 それほど自分がお人よしなのか、それとも偽ガリッドとの戦いで気持ちの整理が既についていたからなのか。


 それはわからなかったが、もはやドンドに迷いはなかった。


(オレは、お前に、勝ってみせる!)


 巨木ゴーレムは、再び腕のひとつから巨大木の実を射出してくる。


 それに対し、ドンドは斧の側面を使って木の実をはじき返した。


 木の実は巨木ゴーレムの足元に直撃し、既に砕けかけていた右脚をついに折ることに成功する。


 巨木ゴーレムが膝をつき、激しい地響きが周囲に響き渡った。


 それを見た周りの受験者たちがおぉと騒ぐが、ドンドの方とて無事には済んでいなかった。


 木の実をはじき返した直後、薙ぐように動かされた他の四本の腕がドンドの身体をかすめており。


 それによって受けた衝撃で、ドンドは脳を揺さぶられたかのような感覚を味わっていた。


(引くな。ここで一気に、押し切る!)


 しかし、ドンドは心の中で自身に活を入れ、斧を握る手に一層の力を込める。


 相手は膝をつかせながらも、四本の腕による怒涛のパンチを連続で放ってくる。


 それをなんとか回避するも、超重量のパンチが地面に接することで起こる衝撃波が、一層激しくなりドンドを襲っていく。


 普通に考えれば、ここまでの破壊力を持つモンスター相手に接近して戦うこと自体が自殺行為であり、無謀とも言える。


 だがドンドは、ここで確実に仕留める腹積もりだった。


 というのも、生半可な攻撃は時間が経つと元に戻ってしまうことに、ここまでの攻防で気が付いていたからである。


 変に引こうものなら、ジリ貧になることは疑いようもなかった。


「うぉおおおおおおおおお!」


 そこでドンドは、おもむろに巨木ゴーレムの身体を木登りの要領でのぼりはじめる。


 右手に斧を持ちながらも、左手と両脚だけで器用に巨木ゴーレムの胴体へとのぼっていく様子に、傍から見ている他の受験者たちは、驚愕や感嘆の声をあげる。


「こう見えても、木登りは得意なんだべよ!」


 そんなドンドの叫びが示す通り、あっという間に巨木ゴーレムの肩あたりまでのぼりつめることができていて。


 そこから勢いよく斧を振り下ろし、左にある腕の一本をひといきに両断しにかかった。


 轟音と共に勢いよく切られたその巨大な腕部分は、地響きをたてながら地面へと落下する。 


 巨木ゴーレム自身も、さすがに一撃で腕を斬られたことが衝撃だったのか、ぐらりとバランスを崩し。


 四つん這いになるような態勢になっていた。


(よぉし。このまま一気に核を取り出して……!)


 ドンドは巨木ゴーレムの動きに、振り落とされないようにしながら。


 肩周辺から、胴体部分へと乗りうつり、そのまま斧を振り上げた。


 そのとき。


 巨木ゴーレムの頭部分に生えていた葉が、突如として舞い散ったかと思うと。


 その葉の一枚一枚が、刃のように鋭く煌めきながらドンドめがけて殺到する。


「――っ!?」


 予想外の攻撃に、ドンドは咄嗟に斧を前に構えて盾にするも。


 その無数の葉すべてを防ぐことはできず、身体のそこかしこを切り裂かれてしまう。


 しかもその葉の嵐は勢いよく殺到してドンドの身体を通り過ぎたあと、すぐにまた意思を持ったようにくるりと方向転換し、再びドンドへ向かってくるのがわかった。


(くそっ、こんな魔法も使えるだか!)


 それに対し、ドンドは勢いよく斧を振り回して風圧を起こし。


 葉の嵐の進行方向をわずかにずらすことに成功する。


 だが、それに安堵する暇はなかった。


 隙が生まれたとみて、巨木ゴーレムは腕の一本の関節をぐるりとまわし。


 ドンドめがけて渾身の一撃を見舞った。




 ガリッドは、いまにも意識を手放しそうなほど、重症の渦中にいたが。


 霞む目を必死に見開いて、この戦いに集中していた。


「お、おいなんかヤバそうだぞ」

「さすがに手ぇ貸したほうがよくないか?」


 近くでざわつく連中の声がわずらわしく、ガリッドはかぼそい声ながら吐き捨てる。


「ごちゃごちゃ、るせぇよ。だまって、みていやがれ」


 ガリッドにはもう既に勝負の行く末がみえていた。


 あの巨木ゴーレムが純粋なパワー勝負をやめ、葉の嵐という搦め手を使った時点で、雌雄は決した。


 たとえ相手が人間には不可能な、腕を逆に回しての奇襲攻撃を放つのを見ても、ドンドは動じてはいないだろうと察していた。


 ドンドはその拳によるアッパーカットを受け、身体が空中に投げ出され、周囲から悲鳴が響き渡るも。


 ガリッドはしっかりと見ていた。


 巨木ゴーレムのそのパンチは、重量を生かして上から振り下ろすものと比べれば、格段に威力が落ちており。


 ドンドは戦いのなかでそれを見抜き、斧を盾にして攻撃の威力を軽減させ、相手の力を利用してわざと上空へ飛びあがったのだと。


「でりゃああああああああああああ!」


 そしてドンドは、中空で両手で斧を振りかぶり。


 重力による落下を己のパワーに加算させ、そのまま巨木ゴーレムの胴体めがけて振りぬいた。



 一瞬の出来事だった。


 誰も彼もが呼吸することさえ忘れ、それを見ていた。


 天を裂き、地を砕く、人間業とは思えない絶技による一撃を。



「ちくしょうめ……」


 ガリッドは、目元を覆ってつぶやいた。


 己が憧れた英雄の、偉大なる勇姿を、その心に刻んで。





 巨木ゴーレムの胴体がまっぷたつになり。


 その体のなかに仕込まれていた核をも見事に両断できたのを見届けると。


 ニルは自身が持っていた核を破壊した。


 そして心底満足そうに、つぶやく。


「いいものを見せて貰ったよ。”女神の斧使い”」







 A級冒険者昇格試験 三次試験


 9人目の合格者   ドンド

 10人目の合格者  ニル・ラヴァン





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