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42話【女神の加護】



 ニル、瀕死のガリッド、そして腰を抜かしてへたりこんでいる男の三人は、


 固唾を呑んでドンドの戦いを見守っていた。


「す、すげぇでやんす。なんであそこまで立ち回れるんでやんすか」


 男の言う通り、ドンドは巨木ゴーレムの猛攻をかいくぐり、反撃すら加えていた。


 突風を巻き起こすほどの威力で振り下ろされる腕を、時にはかわし、時にはどっしりと構えて受け止めることさえできていた。


 象が蟻に対して行うほどの巨大な脚による踏みつぶし攻撃も、難なくそれを避け斧によるお返しの一撃を見舞っている。


 もちろんドンドとて、まともに一撃をもらえば即座に致命傷であるがゆえに、その表情には鬼気迫るものが含まれていたが。


 そこに、敗北を感じさせる感情は毛ほども感じられなかった。


「斧使いなんて、女神の加護のなかでも最底辺のハズレ加護でやんすよね?」


 唖然とした様子でそれを眺め、言葉にせずにいられない男の狼狽ぶりに。


 ニルはドンドから目を離さないまま、説明を返してやることにした。


「あなた、女神の加護についてどこまで知ってますか?」


「え? それはそのう。加護を得た人間は凄い力を得られる、くらいしか」


 やはりそのレベルの知識で見下してる輩か、とニルは心中で嘆息しつつも続ける。


「女神の加護は、基本的に八歳から十八歳ごろの間に発現(はつげん)すると言われてます。加護の種類は様々で、特定の武器の扱いが秀でる加護もあれば、魔法という特殊な術を習得できる加護もありますね」


「そ、それは、一応わかってるでやんすけど」


「その加護ですが。あたりはずれがあるとよく言われます。事実、彼の持つ加護『斧使い』は、筋力が増して扱う斧の破壊力がアップするぶん、自身の重量が増してスピードが落ち、命中率も下がってしまう。そんなデメリットを抱えた欠陥加護だと巷でも揶揄されています」


 ニルの解説を聞いて男はふんふんと頷きつつ、今まさに目の前で巻き起こっている戦闘を見直す。


 ドンドの動く速さは、それこそスピード自慢の冒険者に比べれば、もちろん若干劣って見えるだろう。


 しかし、重量級の武器を持った人間ができる動きとは思えないほど、ドンドの動きは機敏だった。


 少なくとも、自分にあんな動きはできないだろうと男は理解していた。


「そしてここからが重要なのですが。女神の加護は、発現した時点でいきなり強くなるということはないということです。修行や鍛錬、知識の習得、さらには精神的な成長によって自身に宿る加護の使い方を徐々に理解し、力を使いこなせていくようになると聞きます」


「へぇっ。そうなんでやんすか、そこは知らなかったでやんす」


「つまりは、仮に同じ加護を得た人間がいたとしても、その人が歩む人生によって、強くも弱くもなるということです。そして彼は今、揶揄される『斧使い』の大前提を覆す成長を見せている。私の見立てでは、筋力に加えて防御力や瞬発力、判断力や魔力に至るまで様々な能力が飛躍的に向上しています」


「ほんとでやんすか! な、なんだってそんなすげぇことになってるでやんす!?」


 男は目を丸くして、ニルの傍に詰め寄ってくる。


 ニルはそれを軽く押し返しつつ、黙り込んでただ戦いを見つめているガリッドに視線を落とす。


「さあ。そればかりは私にはなんとも。強大な敵を前に力が覚醒したのか。あるいは、どうしても負けられない理由ができたんじゃないですかね」



 そうして戦いが続くなかで。


 徐々に、周りには生き残った受験者たちがちらほらと集まってきていた。


 援護するにしろ、邪魔をするにしろ、余計なことをするようなら排除するつもりでいたニルだったが。 


 その心配は杞憂に終わった。


 ほとんどの受験者が既に満身創痍になっており、そこであの巨木ゴーレムを目の当たりにして、すっかり戦意喪失しており。


 もはや合格を完全に諦めた様子で、ドンドの戦いを観戦しており。


 そして、徐々に見入っていた。


 巨木ゴーレムによる攻撃をしのぎ、脚を削りダメージを蓄積させ続けているドンドという存在に。


「すげぇ、どうなってんだ」

「あれ、斧使いのドンドだろ」

「アイツ、あんな戦えるヤツだったのか」


 その唖然とした様子に、ニルはどこか満足感を感じつつ、思う。


 おそらくあの巨木ゴーレムは、核を集められなかった受験者たちが一致団結して挑むのが、本来の攻略法だったのだろう。


 だがそれをドンドは、たったひとりで成し遂げようとしている。


「アイツは、攻撃の当たらない役立たずじゃなかったのかよ」

「どんなすげぇ加護を隠し持ってやがったんだ」


 そんな誰かのつぶやきに、ニルはわざと大きな声を出して反論してやることにした。


「彼が持つ女神の加護は紛れもなく『斧使い』です。そして彼が今持っているのは()()()()()()である『まさかり』なんですよ。その力を十二分(じゅうにぶん)に発揮できている今、あんな木偶の坊なんて敵じゃないってことですよ」


 どんなに威力のある攻撃でも、当たらなければ意味がないと人は言う。


 だがそれは裏を返すと。


 当たりさえすれば、どんな敵であろうと粉砕できるという意味にもなる。



「斧使いを馬鹿にしていたみなさんには、この戦いの結末をしっかりと目に焼き付けておくことをおススメします」




こうして読んでいただき、ありがとうございます。


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