35話【愛多憎生の〇〇】
「見つけましたね」
ドンドとニルは、ようやく大木ゴーレムの一体を発見していた。
三階建ての家屋くらいの大きさのそいつは、どこか軽快な足取りで草原を前進している。
「ドンドお兄さん。どうしますか?」
「もちろん、戦うだよ」
「了解です。ではさっき伝えた通り、私が足止めできたらドンドお兄さんが倒してください。それで」
「もし足止めが通じない厄介な個体なら、焦らず戦略的撤退、だべな」
そうしてこくりと頷きあい。
ふたりが近づいていくと、大木ゴーレムも気が付いた様子で、正面をこちらに向けてくる。
もっとも大木ゴーレムに顔というものは存在しないため、本当に正面なのかは証明できなかったが。
大木ゴーレムはおもむろに、丸太のような、というよりも本当に丸太を振り下ろすかのような勢いで、腕による攻撃を繰り出してきた。
ニルは左に、ドンドは右にそれぞれ飛びのいてそれを避ける。
地面をえぐりとる冗談のような攻撃だったが。
それくらいならパワー自慢のドンドにもできるし、スピードもガリッドの攻撃に比べれば雲泥の差だとドンドは冷静に判断できていた。
ニルもまた、だだっこの赤子を相手するかのように、余裕のある笑みを浮かべつつ。
「まあ、当たらなければどうということはないですね」
避けた勢いのまま、大木ゴーレムへと近づこうとする。
だがその直後、地面から無数の棘のような枝が生え、ニルの身体を刺し貫こうとした。
「ニルちゃん!」
ドンドは叫んだが、ニル本人はむしろ安堵したように笑みを深くして。
「なるほど。そういうトラップ持ちの個体でしたか。早々にタネが知れてよかった」
まるでダンスでも踊るかのような華麗な体さばきで、その棘の枝を次々とかわしていく。
ドンドがぱちくりと目を丸くする間に、ニルはいつの間にか手にしていたロープを大木ゴーレムの右足にひっかける。
力任せにするのではなく、相手の足が動こうとしたそのタイミングを狙ってロープを引っ張ると。
重心を崩した大木ゴーレムはいともたやすくつんのめり、その身体は音を立てて前のめりに倒れ伏した。
「ドンドお兄さん!」
「あっ……お、おう!」
呆けかけていたドンドは、ニルの声で正気に戻り大木ゴーレムへ追い打ちをかけるべく駆け出した。
まずは左脚部分へ向け、斧を思い切り振りかぶりそのまま振り下ろした。
さすがに一撃で両断とはいかないものの、元々まさかりは木を切るための道具。
その真価を遺憾なく発揮したドンドの連続攻撃で、大木ゴーレムの左脚はあっさりと胴体から切り離された。
「ドンドお兄さん、一旦離れて!」
ニルの声でドンドがすかさず後退すると、そこへ再び棘の枝が地面から殺到する。
しかしさすがに掛け声のおかげで、ドンドはその攻撃を喰らうことなく退避できていた。
そこから大木ゴーレムは、右脚や両腕でなんとか立ち上がろうとしているものの、うまくバランスがとれないようで無様に何度も地面へ逆戻りする形になっていた。
「ふぅ。所詮はゴーレムですね。体の一部が欠損してしまえば、こんなものですか。回復するタイプでもなさそうですし、意外と簡単でしたね」
そう言って、汗一つかいた様子もなくドンドの傍らに戻ってくるニルを見て。
ドンドはあまりにもうまくいったこの攻防に、わずかに声を上擦らせる。
「いや、あの、ニルちゃん。もしかして、もの凄く強い冒険者だったりするだか?」
「え? なんですか、いきなり?」
「さっきの体さばきとか、ロープを使った戦闘とか、とても素人のそれじゃなかっただよ」
「あはは。運良く相手が弱かっただけですよ。さあ、ゴーレムを解体して核を取り出しましょう」
ぽんぽん、と爽やかな笑顔でドンドの背中を叩くニル。
(いやいや。絶対そんな簡単な相手じゃなかったと思うんだけども……)
そう思いつつも、ドンドはとりあえず深く考えるのをやめ、言われた通りゴーレムの解体にとりかかることにした。
そして、暴れられるのが面倒なので両腕と右脚部分を切り落とし。
そのあと何度かゴーレムの胴体に斧を入れたところで。
あっさりとそれは見つかった。
「あ、それです。そのキューブが『核』ですよ」
ドンドがゴーレムの胴体から、四方に魔法陣の描かれた掌サイズの立方体を取り出すと。
四肢をもがれてなお小刻みに身体を動かしていたゴーレムが、完全に沈黙した。
「やりましたね! これでまず目標ひとつめです!」
笑顔で駆け寄ってくるニルに、
ドンドも笑ってハイタッチをかわそうとした。
そのとき。
ニルの表情が一転して険しいものに変わった。
なんだ? と思う間もなかった。
ニルはドンドをかるく押しのけると、自身もまた横っ飛びになり。
ふたりの方向めがけて突撃してきた何者かの攻撃を回避する。
「まあ、予想はしてましたけどね。核をゲットできた時点で襲ってくる第三者が出てくるのは」
ニルは特に表情を変えることなく、持っていたロープをかるく回していたが。
軽くよろけながらも態勢を立て直し、襲撃者の顔を見たドンドは少なからず驚かされた。
「あたいの攻撃を避けるなんて。なんて忌々しいヤツなんだろうね」
男勝りな口調、ポニーテールにした長髪、頬にあるそばかす。
二次試験終了後に出会った女性冒険者、ランがそこにいた。
「いまのは、お前さんの仕業だべか?」
しかし彼女はかつて会った時とは、打って変わって険しい表情を浮かべており。
獲物として彼女の両手に装着されている鉤爪は、どう考えてもこちらを攻撃するつもりで振るわれたものだとわかってしまった。
「ドンド。わりぃな、すぐ終わらせる」
ランはそう小さくつぶやくと。
核を持ったドンド……ではなく、ニルの方へと向き直った。
その行動に、さすがのニルも軽く首をかしげさせる。
「あれ? ゴーレムの核が目的ではないんですか?」
ニルはそう質問するが、その問いに返ってきたのは鉤爪による猛攻だった。
ドンドの目から見て、ランはガリッドにも勝るとも劣らない速さでニルに肉薄していく。
少しでもその爪がかすれば、たやすく皮膚が裂ける結果になることは明白だが。
ニルはその攻撃の軌道を読んでいるようで、何度となく迫りくる鉤爪をひょいひょいとステップを踏むだけで避けていく。
さらに体をかるく回し、ランの下半身めがけてローキックを放った。
だがランは膝でそれを受け、お返しとばかりに反対の脚で蹴りを放つ。
しかしニルはそれを腕でうまく受け流し、今度は手にしたままのロープを鞭のように振り回し、彼女の目を狙うが。
ランはかるくのけぞることでそれを回避する。
そうしたかなりの高レベルな攻防に、ドンドはわずかに気圧されつつ。
「な、なんでこんなことになってるんだべ」
どうにかこの戦闘を止めるべく、割って入るタイミングを伺っていた。
そのとき。
『みなさ~ん。たったいま、1体のゴーレムが撃破されました~。残るゴーレムはあと9体で~す』
唐突に、そんな放送がダンジョン内に響き渡った。
反射的に自身の持つ核を見るが、それは変わらずそこにある。
つまり、誰かがゴーレムを撃破したということに他ならない。
自分達も悠長にしてはいられない、とドンドは思ったが。
それを行ったのが、ドンドがよく知る人物だとは、さすがにわからなかった。




