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33話【作戦会議・ドンド&ニル】


 草原の階層へ到達し、看板を確認して脱出の条件を把握したドンドとニル。


 ふたりは階段近くの壁際付近に座り込み、一旦話し合いの機会を設けていた。


「本当に、オレと組む感じで良かっただか?」


「ええ。さっきの人達はあんまり好きになれなかったですし」


「まあ、もしニルちゃんが一緒に行くって言ったら止めてたかもしれねえだ」


「あはは。もちろん、あの人達もそれなりの冒険者でしょうから。束になればゴーレムの二体三体は倒せるかもしれないですけど。たぶんそれで打ち止めでしょうね。仲間割れが前提のパーティはノーサンキューです」


 苦笑しつつ、ニルはところでと前置きして話題を切り替える。


「ゴーレムについて、ドンドお兄さんはどのくらい知っていますか?」


「えーっと。ダンジョンの謎の力によって生まれるモンスターと、凄い魔法で作ることのできる人造モンスターの二種類がいるってのは知ってるだよ」


「正解です。今回は試験ですから、まず間違いなく人造モンスターがボスでしょうね。だとすると、注意するべき点がいくつかあります」


「というと?」


「基本的なゴーレムは、石・鉄・木材、など材質こそ様々ですが、どれも体が大きくのろのろした動きしかできません。初級・中級ダンジョンのゴーレムはだいたいこっちですね」


「ああ、オレも初級ダンジョンで一度で戦って倒したことあるだよ」


「でも人造ゴーレムは違います。『核』と呼ばれるゴーレムの心臓に魔力(まりょく)を注入する際、様々な命令・能力を付与して特殊な個体を生み出すことが出来るんです。もっとも、それが可能な凄腕魔法使いは本当に一握りですけど」


 ドンドは、試験官であるファミリの顔を思い浮かべたが。


 話でしかその実力は知らないので、凄腕の魔法使いと言われてもピンとこなかった。


「なにが言いたいかと言うと、固定観念に囚われてはいけないということです。足が速い個体、武器を使う個体、もしかすると人語を話したり、魔法を使う個体なんてのもいるかもしれません」


「ほえー。そうなんだべなあ。そりゃあ、気を引き締めてかからねえと」


 感嘆の息をもらすドンドに、ニルはこくんと頷いて。


「それを踏まえて、私たちがとることのできる作戦は、みっつ」


 ドンドの目の前に手をあげ、三本の指をつき立てる。


「作戦1。普通に私達ふたりで勝つ。ゴーレムのなかには、倒しやすい個体や、私達と戦闘の相性のいい個体もいると思います。それを探して撃破するわけです」


「なるほど。オレの斧で言えば、パワーで押しきれる個体を狙えばいいわけだべな」


「作戦2。誰かの戦いの漁夫の利を狙う。正直、これを考える人は多いでしょうね。労せず利を得られる訳ですから。まあ、そう簡単に獲物をさらえるかはわかりませんけど」


 ドンドは少し渋い表情を作る。


 ロンブルスあたりが、間違いなくそれを狙ってくると予想できたからだった。


「作戦3。誰か信頼できそうな人を探してパーティを組む。戦術の幅が広がるのは悪くないですけど、その相手も合格させるとなれば必然的に倒すゴーレムの数が増えるのがネックですね」


 ドンドの脳裏にジェイコブの顔が浮かんだ。


 ここまで姿を見ていないので、どうなったかはわかりようもなかったが。


 もし自分が心配していると知ったら『それより自分の心配でもしてろ』と言われるような気がした。


「さて。どの作戦でいきますか?」


 語り終えたところで、ニルはじっとドンドを見つめてくる。


 それを受けてドンドは、ニルは意外に目力が強く、かるく威圧されてしまうようなプレッシャーを秘めているのを感じていた。


 自分よりもかなり小柄な相手に委縮しかけている自分に苦笑しつつ、ごほんと一度咳払いをしたあと。


 意を決して結論を口にする。


「1だ」


「なるほど。なんとなく、そう言うような気がしてました」


「もちろん3もありだとは思ってるべ。でも、都合よくそんな相手を見つけられるかはわからない以上、1を前提に動くべきだと思うだ」


「りょうかいです。それじゃあ、善は急げですね。ゴーレム探しを開始しましょうか」


 ニルは立ち上がり、ぱんぱんと軽くおしりについた草を払う。


 ドンドも腰をあげ、斧を構えて草原の奥へと足を踏み出した。





 そんなふたりを、遠目に見つめるひとつの影があった。


 その人物は、ふたりに見つからないようわざわざ地面に伏して様子を観察していたが。


 やがてふたりが歩き出したことで、自分もそのあとをつけるように歩き出した。


 念入りに距離をあけ、気づかれないよう細心の注意を払いながら尾行するその人物だが。


 その人物にとって、己の行動には一切の恥もなにもなかった。


 そしてその表情はなぜか憎々しげに歪んでいるものの、そこに殺気は含まれていなかった。


 むしろその人物にとっては、今から行うのは正しいことだと信じ切っていた。


 自分が正義、相手が悪。


 そこに(よこしま)な感情など入る余地などないと、むしろ晴れやかな心地ですらいた。


 そんな(いびつ)さに気付く様子の無いその人物は、


 このあとに起きる正義の制裁を夢想し、柄にもなく心を躍らせるのだった。





こうして読んでいただき、ありがとうございます。

ブックマークや評価、感想をいただければ励みになります。


余談ですが、カクヨムでも公開はじめました。

ほんの少しだけ加筆修正している部分がありますが、ストーリー内容に変更はありません。

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