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2話【幸運と不運】


 ドンドは謎の少女を抱えながら、オーブから発せられる灯りを頼りにダンジョン内を進んでいた。


 松明いらずなのは助かったが、少女を前に抱えてオーブも左の掌に持っているこの状態。


 唯一の武器である斧は背中に背負うしかなく、ドンドは自分が更なる窮地に陥っているのを自覚する。


「はぁ、はぁ。確か最下層まで、三回ほど階段を下りた筈だべな」


 ガリッドたちにかなり急がされたため、道筋はまるで覚えていなかったが。


 さすがに自分がどの階層にいるかくらいは把握していた。


 どこにモンスターが潜んでいるかわからないので、できれば慎重に進みたかったが。


 少女の体調が心配なのはもちろん、ドンドは食料も水もすべてガリッド達に預けてしまっていた。


 どの側面から見ても悠長にしている余裕がないのは明白なため、とにかく遮二無二走るしかなかった。


「この階層にはたしか、罠も無かった筈だなや。手当たり次第に進むしかないべか」


 石造りのダンジョンは大きな岩やら瓦礫やらが散乱しており、通路も右に左に通路が広がっている。


 その通路の幅はたいていドンドを三、四倍くらいに膨らませたくらいの広さがある。


 狭い細道も含めればかなりの広さになるが、少なくともここまでドンドが通れない道は通らなかった。


 となれば、細道は無視しても問題はない。


 だが、それは逆に言えば目立つ大きな道ばかりしか通れないということになる。


 つまり、


「ギャオオオン!」


 モンスターに見つかる可能性が高いということだった。


 ドンドの目の前に現れたのは、ストーンウルフが一匹。


 魔法によって動き回るゴーレムの一種で、石でできた小柄な狼の姿をしている。


 ドンドの斧でも一撃で倒せる雑魚だが。それはあくまで、攻撃が当たればの話である。


「すたこらさっさ、だべ!」


 ゆえにドンドは勢いそのままに、逃げに徹することにした。


 どすどすとストーンウルフの横を駆け抜け、とにかく走る。


 ドンドのノロマな足では、すぐに追いつかれるかと危惧するが。


 不幸中の幸いか、そのストーンウルフは右の前足が崩れかけており、わずかに速さで勝つ事ができた。


「誰かがアイツを負傷させてくれたみたいだべな。ツイてるべ!」


 更にラッキーなことに、目の前に階段が見えて来た。


 階段を急いで駆けあがると、ストーンウルフも上がっては来なくなった。


 ダンジョン内のモンスターの中には、自分の縄張りである階層から離れない輩も多いという。


 どうやらストーンウルフはそれに該当したようで、ドンドは一度息を整えることができた。


「はぁ、はぁ、次の階層は確か、罠がたくさんだった筈だべ」


 そして事前に教えて貰った情報を頭で反芻し、ドンドは慎重に歩を進める。


「すまねえな、お嬢ちゃん。もう少しだけがんばるだぞ」


「…………ん……」


 少女は、わずかに身じろぎしたが目を覚ます気配はなく。


 ドンドは焦る気持ちを押さえつつ、石畳を踏みしめながら進んでいく。


 途中、既に発射され壁に突き刺さった数本の槍や、床を粉々に砕いて落下した釣り天井など。


 発動済みの罠にいくつか出くわした。


 おそらくは他の受験者が解除したのだろうと、安堵しかけたが。


 巨大な鉄球からいまだじわじわと染み出ている血を発見して、そんな安心は即座に引っ込んだ。


 低レベルのダンジョン、あくまでこれは試験、などと油断していた者の末路を目の当たりにして。


(お、落ち着くだ……。オラの頑丈さなら、ちょっとやそっとの罠には耐えられるべ)


 ごくりとのどが鳴り、興奮で忘れていた空腹やのどの渇きが湧き上がってくる。


 ここまでの疲れも感じてしまうなか、分かれ道にたどり着いた。


 右と左、どちらが正解かドンドにわかるはずもなかったが。


「これは……?」


 分かれ道の壁に、なにやら文字が刻まれており。


 オーブの光を近づけて恐る恐る眺めてみるとそこには、こう書かれていた。



『ジェイコブ、右が正解だ。階段までの道筋も書いておく。出口でお前を待ってるぞ。マルスより』



 ドンドは、こんな状況ながら思わず涙を流しそうになってしまった。


 おそらくは、何かのトラブルではぐれた仲間の為に、誰かが書き残しておいたものだろう。


 自分には築くことのできなかった冒険者の絆を垣間見て、ドンドはその書置きに一礼し、右へと歩を進めた。


 そして書き置き通りの道順で進むと、ほとんど罠が解除された道のりを歩むことができた。


 そのまま上への階段を見つけられた時には、歓喜のあまり小躍りしそうになったほどだった。


「よぉし! あとすこしだべ!」


 臆病風も緩和され、ドンドは自分に運が巡っていることに気が高ぶっていた。



 だからこそ、忘れていた。



 気が緩んだその瞬間こそを、狩人は狙ってくるということに。



 階段を一気に駆けあがったドンドは、明るめの階層に到達する。


 地上が近くなってきた影響で、ここからはオーブの灯りなしでも通路を確認できる。


 近くにモンスターの影が見当たらないので、今のうちに通路を突き進む。


 やがて来た時に通った覚えのある、一軒家の家屋が入りそうなくらいの広間まで辿り着いた。


(やったべ! ここまでくれば、さすがにある程度道は覚えてるだよ!)


 このままここを抜ければいくつか通路を抜けるだけで階段まで辿り着ける、とドンドは理解していた。


 地上まではあとひとつ階段を上がるだけだと、先を見据えて顔に笑みすら浮かべていた。


 完全にもう助かったつもりでいたドンドは、


 その間の抜けた顔に、真横からハンマーで殴られたかのような衝撃が襲った。



「ぁ、があっ……!?」


 視界が明滅し、そのまま前のめりに倒れかけたが。


 辛うじて、冒険者としての経験と持ち前のタフネスさで、片膝をつくだけで留めることができた。


「な、なん、だべ……いっ、たい」


 ドンドは、目をしばたたかせ、周囲を見渡し愕然とした。


 そこにいたのは、無数の目だった。


 壁や床に擬態し、身を隠して獲物を待ち受けるモンスター。


 見た目は掌サイズくらいの石ころのようだが、そこにはギョロギョロと動く目玉がついていた。


「ストーンスライム……!」


 蠢くその不気味な目玉たちは、じりじりと、ドンドたちを取り囲み始めていた。



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