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24話【リーリィの意思・その3】


 リーリィは夢を見ていた。


 目の前に、誰かがいる。


 その子は自分を見ていて、自分もまたその子を見ていた。


「あなたはだれ?」


 リーリィがそう聞くと、その子は口を開かせる。


「わたしはあなた」


「あなたはわたし」


「もう、あともどりはできない」


 その言葉の意味はよくわからなかったが。


 気づけば目の前の子はいなくなっており。


 自分の口が勝手に動いて返事をしていた。


 不可思議な状況に、頭が混乱しかけるが。


 なぜだかそれはイヤな気持ちではなかった。


「これからあなたはどうするの?」


「あのひとのところへ行かなくちゃ」


「そう。でも残念。さすがに力をまだうまく使いこなせないのよ」


「だけど、きっとしんぱいしてるから、すぐにかえってあんしんさせないと」


「そうね。まあここから出るだけなら、何とかしてあげるわ。その後は自分でがんばりなさいな」


「うん、わかった」


 そしてリーリィは、夢から覚める。



 眠っていたリーリィは、すっくと突然立ち上がる。


 隣でリーリィの肩に軽く体を預けていたサラもまた、それによって目を覚ました。


「あれ、リーリィちゃん? どうしたの?」


「ああごめん、ちょっと離れてて」


 目ぼけまなこをこすりながら、サラは立ち上がったリーリィに目を向けるが。


 そんなサラをよそに、当のリーリィはおもむろに石壁にぺたりと右手をつけたかと思うと。



弾けて弾けて弾け飛べ(ボム・ボム・パリン)!」



 そうつぶやいた瞬間。


 リーリィの右手から赤い光の光線が発射された。


 直後、その光線が通り抜けた石壁は激しい爆音と共に勢いよく弾け飛んだ。


 さらには、この建物の隣やそのまた隣に建っていたいくつかの家屋にも光線が到達し、


 そのまま光線が届いた範囲全ての建造物が、連鎖的な爆発に包まれ、あっという間に倒壊していく。


 おまけに周囲に多量の炎が巻き散らされ、人々の悲鳴があちこちから響き渡る。


 結果、地獄絵図とまではいかないまでも、かなりの凄惨な状況を生み出してしまっていた。


「あ、やば。威力調整ミスっちゃった」


 やがて石壁はガラガラと崩れ落ちて原形をとどめることができなくなり。


 その先に見えた建物も十秒足らずで瓦礫の山へと変貌してしまっていた。


 爆風に煽られながらその惨状を見つめていたリーリィは、てへっと舌を出して誤魔化していたが。


 その場にいた、サラをはじめとした他の奴隷たちはあんぐりと口を開けたまま何が起きたかわからず、


 ひっくり返っていたり、泣き出したり、完全な放心状態に陥ってしまっていたりした。


「ま、いっか。それじゃ、サラおねーちゃん元気でね。逃げるならご自由にどうぞぉ」


 リーリィはバイバイとサラに手を振った後、石壁が崩れた場所から外へと飛び出し、


 近くの建物の瓦礫もひょいひょいと身軽に飛び越えながら、その場を後にしたのだった。


「え、ちょ、ちょっと!」


 辛うじて我に返ることができたサラは、


 一瞬の逡巡のあとリーリィのあとを追うようにして外へと駆け出していった。


 そして、


「………………」


 いつしか目を覚まし、沈黙を保ったままじっと状況を眺めていた巨体の男ポンカスは、


 首に巻かれた鉄の首輪をかるく撫でたあと、


 ゆっくりと立ち上がりのしのしと外に向かって歩き出していった。



 そこから更に数秒ののち、


「な、なんじゃこりゃああああ!」


 コブントが爆発を聞きつけて檻の前へと飛び込んでくるや、その内部の壁が吹き飛んでいるというまさかの事態に、思わず声の限りに絶叫し。


 唖然としてしばし立ち尽くしてしまった。


(な、なにがどうなってこんなことに!? 誰かの襲撃でもあったんかあ?)


 頭を抱えてパニックを起こしかけるが、それでも辛うじて残った冷静さでコブントは知略を巡らせる。


 ただしそれは、ことの原因究明や事態の収束に対して知能を活用するのではなく。


 どうすればこのあと自分に振りかかる問題が最小限になるかを思案するという、なんとも後ろ向きな考えでしかなかった。


 その結果。


 ひとまず残った奴隷たちを別の場所に移すことを決め、檻の鍵を開けたのであった。




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