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21話【右往左往のジェイコブ】


「ぜぇ、はぁ、ぜぇ」


 ジェイコブは息を切らしながら、砂漠のなかを逃げ回っていた。


 というのも、彼を追うように砂丘のあちこちからサンドウォームという、人間位のサイズのある大ミミズのモンスターが顔を出し。


 わらわらと次から次にジェイコブに群がっているのである。


 もちろんそれは他の受験者も同じであるようで、遠くから戦闘らしき音が耳に届いてくる。


「うわっ、あっぶね!」


 サンドウォームの一匹が、大口を開けて砂の中から顔を出し獰猛そうな牙をガチリと閉めてくる。


 危うく足を挟まれそうになってしまい、ジェイコブは肝を冷やす。


 逃げてばかりでは、ジリ貧になりかねないことを理解していたが。


 サンドウォームは、とにかく数が多いのが厄介であり。


 砂の中を掘れば百近くはいるのではと思うほど、際限なく湧いているため戦う気は早々に失せていた。


 なにより、お得意のトラップが足場の悪さのせいでうまく使えないのが最大の問題であった。


「くそっ、とにかく上へと続く階段さえ見つかれば」


 逃げながら周囲を見回すが、砂煙のせいで視界が悪く一寸先すらハッキリとは見えない。


 完全に、階段を偶然見つける幸運に賭けるしかない状態だった。


 相変わらずラッキーにすがるしかない自分に、ジェイコブは歯噛みする。


 二次試験、ドンドが無事であったのも、自分が合格できたのも運が味方したからに他ならない。


 ハニービーの件やリーリィの行方不明、マルスの謎の昏睡など、未だによく原因がわかっていないこともあったが。


 そうした不測の事態にも対処できてこそ、A級冒険者であるとも言える。


 ドンドやリーリィの前で大見得を切っておきながら、なにもできなかった自分がみじめで。


 あまつさえ、彼らを避けるような態度すらとってしまった自分があまりに情けなかった。


 そこへきての今現在、ここでもまた何の方策も打ち出せないようなら、今回こそ不合格になるのは明白だった。


「落ち着け、クソ底辺ロートル野郎! 毎回毎回、無様を晒してんじゃねえ!」


 ジェイコブは弱気な自分を軽く殴りつけ、体を動かしながら頭を回転させる。


 さきほどから砂漠を走り回ってわかったことは、この一帯はかなり受験者が密集しているようで。


 あちこちから、戦闘音や悲痛な叫び声などが響いてきていた。


 なのでおそらくは、上への階段は近くには存在していない可能性が高いと踏んでいた。


 仮にジェイコブが階段を見つけても、大騒ぎをするようなことはまずしないが。


 それでも、近くでモンスターと必死に戦っている受験者がいれば声ぐらいはかけるだろう。


 たとえ受験枠を競い合うライバルとはいえ、無為に消耗させ命を削らせるのは人間として非情が過ぎるからだ。


 それに、もし仮に情の欠片もない受験者が階段を見つけたとしても。


 次の階層に一体どんな仕掛けが待ち受けているかわからない以上、


 誰かを先行させ様子を見たほうがいいと考え、やはり近くの受験者に声をかける可能性は大いにある。


 つまり今、自分はまったく見当違いの場所にいるとみて間違いない。


 そこまで考えたところで、前方にまた新たに七匹ものサンドウォームが一気に砂から顔を出した。


(この動き、まさか)


 そんな、あからさまに進行方向を塞ぐような動きに対し、ジェイコブはある仮説を立てた。


 このダンジョンを根城にしているサンドウォームとしては、当然獲物を逃がしたくはない筈。


 要するに、出入口付近に陣取っている可能性が高いということだった。


 そうしたことを踏まえると。


(受験者たちの人数が少なく、サンドウォームの数が多い方向に求めるべき階段がある、と、思う!)


 そう結論づけたジェイコブは、今まさにとうせんぼされている方向を見据え。


 まずはコイツらをどう乗り越えるかを、考え始めるのだった。





 ガリッドは、いち早く上の階層に続く螺旋階段に辿り着いていた。


「へっ、楽なもんだぜ」


 ガリッドは砂漠に転送された直後。


 持ち前の聞き耳スキルを使って、近くの音を拾い集めていった。


 それにより、周囲にはかなり多くの受験者がいることがわかり。


 連中に足を引っ張られるのを避けるため、人がほぼいない方向から探ることにしたのである。


 そもそも試験官の心理から鑑みて、脱出口に近い場所に受験者を置くとは考え辛いと踏んでいたのもあった。


 そうしてあたりをつけた方角を捜索した結果、見事に階段を発見できたというわけだった。


「どうやら、俺が一番のりのようだな」


 階段付近には、砂を踏みしめたような足跡は見当たらない。


 スピード自慢の自分がかなり急いだ成果だと、思わず頬を緩ませる。


 そしてガリッドは意気揚々と、階段を上り始めた。


 このときガリッドの脳裏には、ラミリネやロンブルスを待つべきだろうかという冷静な思考や、


 次の階層になにが待ち受けているのだろうかという不安なども、わずかに頭に浮かんでいた。


 それでも、それを上回るほどの高揚感が彼の心を占めており。


 最終的にガリッドは、階段を上り切って上の階層へと駒を進める形となった。



 その結果。


 彼は予想外のものと遭遇することとなる。



こうして読んでいただき、ありがとうございます。


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