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15話【二次試験終了。そして……】



「それでは、二次試験を突破した皆様、お疲れさまでした。明日に備えて、存分に英気を養ってください」


 ギルド職員のその言葉で、受験者たちは修練の森から解散していくなか。

 

 ドンドは森近くのテントで木製椅子に腰かけ、ぼんやりと時間が過ぎるのをただただ待ち続けていた。



 というのも、ハニービーの蜜をかぶってしまったことを知られるや否や、


 衛兵達のテントまで強制連行され、特製の洗浄液を頭からかぶらされる運びとなり。


 その液が乾くまで、しばらく待たなければ宿には戻れないと言われたからであった。


(にしても、一体なにがどうなったんだべか)


 簀巻きにされ絶体絶命だった筈の自分は、いつの間にか気を失っており。


 気づけば森の出口で寝転がっていて、ギルド職員から無事合格だと告げられ、まったくわけがわからなかった。


 あちこち負傷していた体の傷もなぜか綺麗に完治しており、おまけに疲労感すらもさっぱりなくなっているのも不思議な要因のひとつだった。


(それに、あのリーリィちゃんは、夢か幻だっただか?)


 気を失う前に見た光景。

 

 リーリィが別人のように明るく振舞っていたのは、ドンドの脳裏に鮮明に焼き付いていた。


 当のリーリィは、現在テントの簡易ベッドで静かに寝息を立てて休んでいる。


 衛兵の話では、試験終了の放送が流れた直後、リーリィはドンドを連れて森から現れ、


 そのあとすぐに気を失ってしまったのだとか。


(気になると言えば、ジェイコブさんもだべ)


 そこからは、次々に生き残った受験者が森から姿を現していき、


 やがてマルスを背負ったジェイコブも、なんとか時間内に森から脱出し姿を見せてくれていた。


 ドンドが安堵する以上に、ジェイコブはドンド達の無事を涙を流して喜んでくれたが。


 そのあとなぜだか少し気まずそうに距離をとり、解散の言葉がかけられた後は、


「あー、その、なんだ。とりあえず俺っち、マルスを家まで送り届けてくる。明日もその、よろしくな」


 という若干たどたどしい言葉を言い置いて、先に宿へと戻ってしまったのだった。


 あれほど劇的な別れをしたあとなので、気まずいのはドンドも同様なため深くは追及できず。


 結果、なんともいえない不完全燃焼さが残る結果となっていた。



「あ、あのよぉっ」


「ん?」


 そうして色々なことに思いを馳せていたドンドに、話し掛けるひとりの人物がいた。


 ドンドが目を向けるとそこには、ひとりの女性冒険者がいた。


 長い髪の毛を後ろでくくりポニーテールにした、頬にあるそばかすが印象の強い、活発そうな二十歳くらいの女の人。


 外面の特徴をまじまじと見つつ、どこかで会っただろうかと記憶を探るがすぐにはピンと来ず。


「えっと。どちらさまだべ?」


「あたいの名は、ラン。さっきは、その、本当にすまなかった!」


 ハキハキとした言葉と共に深々と頭を下げられ、ドンドは面食らってしまった。


 わけがわからず、謝られる心当たりを考えたとき。


 彼女がオグトパスのパーティに加わっていた女性冒険者のひとりだと、ようやく思い出した。


「脅されていた、なんて言い訳にもならねえとは思う! でも、どうしても謝りてえんだ! 本当に、本当にすまない! 悪かった! ごめんなさい!!」


 そのままランと名乗った少女は膝をつき、おまけに地面に頭をこすりつけてきて。


 さすがにドンドはぎょっとしてしまう。


「や、やめるだ! うら若いお嬢さんが、そんなことするもんじゃねえだよ!」


「いいや、やめねえ! あんな野郎にホイホイついていった、あたいの弱さを反省するためにも、土下座のひとつくらいしなきゃ気がすまねえんだ!」


「だ、だったらもう十分だべ! だから、ほら、顔を上げるだよ」


「そうはいかねえ! あんたは下手をすれば死んでいたんだ! そうなっていたら、なにをやっても取り返しがつかなかった! 煮るなり焼くなり、好きにしてくれても文句は言わねえ!」


「わかった! わかっただ! もう許すから顔を上げるだ!」


「こ、こんなあたいを許す!? なんて身も心もでっけえんだあんたは! それにくらべてあたいは、自分のちっぽけさが情けねえ!」


「あー、もう! 頼むから、顔を上げてくれだべええ!」

 

 ドンドは大きめの声でそう告げ、ほぼ強引にランの頭をあげさせる。


 その顔は涙と鼻水でべちゃべちゃになっており、そのあともぐすぐすと嗚咽をもらしはじめ。


 もはやドンドのほうも泣きそうになりながら、おろおろとすることしかできなかった。



 その後、そんな状況を見るに見かねた衛兵のひとりが手ぬぐいを差し出してきて。


 小一時間を費やして、ようやく彼女は落ち着きを取り戻した。


「す、すまなかった。感極まると、いつもああで。重ね重ね、悪かった」


「もうほんとに構わねえだよ。それじゃあ、そろそろオラもいくだ」


 すったもんだしていた影響で、すっかり日も暮れ、洗浄液も乾いたため。


 ドンドはいまだ寝息を立てているリーリィを背負い、宿へ戻るため踵を返そうとした。


 そんなドンドにランはもう一度、声をかける。


「そ、そうだ! 名前! あんたの名前、教えてくれよ!」


「ああ。オラはドンド。ドンドだべ。お互い、明日の試験がんばるべよ」


 そして今度こそ、ドンドはその場を後にしたのだった。



 一方、残されたランはというと。


「ドンド、かあ。えへへ。いい奴だったなあ。っと、いけないいけない。明日からはライバルだもんな」


 自分の頬がほんのり赤らんでいるのは、夕日のせいだろうと思い込むことにした。


 もっとも、もうすでに日は沈んでしまっていたが。






二次試験まで終了。試験編はもう少し続きます。評価やブックマークをしていただけると幸いです。

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