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5 夜の吸血鬼

 致命傷を負ったはずの男はゆっくりと立ち上がる。コンタクトレンズが地面に落ちた。現れた瞳。片目が真っ赤に染まっていた。


「……まさかっヴァンパイアですか!! だがッ。それらしき匂いはなかったっ」


「ドーピングで誤魔化しても本質は変わらねぇ。まさにEランクってところだなァ」


 あからさまな挑発にヴァンズは血管が浮き出るほどに激怒する。しかし、一度怒りを抑え込んだ。


「ッ……はっ。誰がなんですって? 先ほどの無様な結果を忘れましたか!!?」


「ハハハっ。悪いな。俺は純粋じゃないんでなァ。日照りの耐性がしょぼいんだよ」


「なるほど、眷属ですか。元人間の……それで、どなたの眷属ですか? まあ、貴方の実力を見るに……クク。Fランクの下賤なヴァンパイアってところですかねェ!!!」


 夜空はそれを聞いて怒るどころか邪悪に。楽しそうに笑っていた。ヴァンズは主を馬鹿にしても怒らない眷属に嫌悪していた。夜空は彼を煽った。


「おいおいおい。もっと上手く挑発しろよォ。たかがFランク未満も殺せないクソ雑魚ヴァンパイアさんよ。お前の眷属になったやつは哀れを通り越して尊敬するぜ。もし居るならだがな」


「ッ……もう一度ぶっ殺してやるッ……今度は塵も残さん!!」


「紳士キャラは卒業か? あっっさい野郎だ」


「ッ言っておくが今の俺はAランクをも容易くぶっ殺せるゥゥ!! この高貴な俺に生意気な口を叩いた罰だッ。ゆっくりといたぶりながら殺してやるぅ。後悔しながら逝けぇぇ!!」


 ヴァンズの怒りに連動するように影が伸び、夜空の全身を切り刻む。今度はしっかりと頭と心臓を射抜く。それだけではなく、その二つの臓器を切り刻んで跡形も残さない。夜空が地面に転がった。


「ふんっ。再生に頼るだけのパチモンのヴァンパイアが……本気でこの俺様に勝てると思ってたのか!!」


 ヴァンズがニヤリとした瞬間、驚きの表情に変わる。再生している。彼を殺せていない事を察した。


「なぜ、だ……あれは砕いたはず……そんな馬鹿な事がっ……!!!!」


「不思議か? なんて事はない。それに届く前にお前の影が消滅しただけの話だ。まさか……それすら感じられないほどの低級ヴァンパイアだったか? おっと失言だったかな」


 ヴァンズは怒らなかった。いや、そんな余裕はなかった。ありえない現象に酷く動揺していた。


「嘘だッ。矛盾している……さっきあっさりとやられた奴の力じゃない!!」


「どうした? さっきみたく笑えよ。最高に楽しいだろ?」


「くっ……この俺を舐めるなよォ!!」



 ヴァンズは無理やり冷静になろうと自分に言い聞かせた。


「そうだ、ありえないんだよ。どんなペテンを使ったかは知らんが……俺が負けるはずがないんだァ」


「ハハ、悩むことはない。試してみろよ……答えは目の前にある」


 霧のように細かく無数の粒。その一つ一つが刃となる。ヴァンズの。ヴァンパイアが好む闇魔法の一つである。


「そうだッ。この数なら避けれまい。絶対になにか種があるはずだ。次で見極めてやるぅ。消えろォォ!! 下等ヴァンパイアがぁぁ!!」


 黒く細かい刃を飛ばすと、夜空を包むように闇の球体に隠れた。防御魔法の一種だ。ヴァンズは攻撃を防御をする正常な行動に喜び叫んだ。


「ほぉ!! 中々の発動速度!! だが無駄だ!!」


 刃は球体に刺さる。ヴァンズは安心した表情を見せた。しかし、彼の闇魔法は球体を傷一つ付ける事も叶わず消滅する。刃が球体を貫き、全身バラバラの姿を想像していた。予想外の結果に、彼は強い動揺をみせた。


「そんなはずは……ッ」


 そんな時、背中が燃えるように熱いと感じた。そして、激痛が彼を襲う。ヴァンズは吐血しながらも言う。


「あがっ……なぜ……」



 背後に回り込んでいた夜空はその辺に落ちていた剣を使い、ヴァンズの心臓を貫いていた。しかも彼のように臓器ごと破損させるのではなく、目的のモノ以外は傷つけていない。最小限の損傷であった。


 徐々に目の前の黒い魔法の球体が消える。ヴァンズが目を凝らすも、その中に夜空は居なかった。当然だ。今、彼は真後ろにいるのだから。


「なぜ……心臓だと……」


「戦闘中ずっと。重点的にそこをガードしてただろ。無意識に弱点さらしてんじゃねぇよ雑魚……ていうかこの程度の力でAランクを余裕で倒す? それは盛りすぎだ。せめてB-にしとけ」


「実を食べた私を……これほどの実力差……貴様、何者(なにもの)だ……」


 夜空はそれに答えない。既に別の事を考えていたからだ。ヴァンズは最後に呟いた。


「……そうか……き……ち…………」



 少し力を込め、心臓から剣を優しく抜いた。支えを失ったヴァンズはその場に倒れた。


 再生は起こらない。彼が立ち上がる事は二度となかった。夜空はおもむろに携帯を取り出し、電話をかける。


「あ、マスター? 今から10分後に行く。最高のクリームソーダを……」


「いつものですね。畏まりました」



 数分後に美雨が目を覚ました。六郎の剣が吸血鬼の心臓を射抜いていた。しかし、三人の呼吸はなかった。彼女はその場で跪いて涙を流す。



◇ ◇ ◇




ご一読いただき、感謝いたします。投稿は21時になります。

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