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4 夜の帳

 ヴァンズが今の自分がBランクだと断言した事に美雨たちは驚愕する。Dランクの自分では勝ち目がないと瞬時に悟った。


 一瞬思考を鈍らせた隙に敵はいつの間にかすぐ近くまで来ていた。


 見失ったのはランクを聞いて動揺したのもあるだろう。しかし、単純に速度が上昇していたことが大きい。美雨は少し遅れて背後を見た。


 ヴァンズは手に纏った影で既に攻撃しようとしている。その影はまるで剣のように伸びていた。そして、腕を薙ぎ払うように振る。


「避けて!!」


 三樹たちは転がりながらもそれを緊急回避する。美雨が刀を振る。ヴァンズは笑いながら僅かな動きで避けた。彼女が歯を食いしばる。そこから連続で切りかかる。彼はからかうようにピョンピョンと跳びはねて、軽快に後退する。


「遅い遅い。その程度では私をとえられませんよォ!! さあぁ、私をもっと楽しませてください!!」


 言葉から吸血鬼は遊んでいる事が容易に分かった。しかし、美雨たちはそれに惑わされず、四人は固まった。背後をとられ個別撃破されるのを恐れたからだ。彼女等はコソコソと話をする。


「……あれを二個使うわよ」


「……で、でも」


 あれとは光の玉である。太陽に似た光を放つ魔法が込められている。それを吸血鬼に浴びせる事で一時的に弱体化させる。昼まであろうとも。



「逃走用にも残してるでしょう。これで駄目だったらすぐにそれを使って引きましょう」


「わ、分かった……」


 遠くでその様子を見ていたヴァンズ。


「お早いですね。作戦はよろしいのですか?」


「分かってて見逃すなんて。間抜けね……後悔するわよ」


「さてどうでしょうかね~」


 その時、ヴァンズは指をパチンと鳴らす。四人は新しい攻撃を警戒するが特になにも起こらない。


「い、今のは……」


「怯まないで。ただの時間稼ぎね。気にしない……それよりも奴にこれ以上考える時間を与えないように。速攻よ」


 美雨が”今”だと合図する。その瞬間、彼女は身動きがとれなくなった。


「え?」


 三樹たちが彼女の腕を背中に回し、手錠をかけた。ヴァンズは愉しそうに笑っていた。


「な、なにをしてるの……ッ。こんな時に冗談はッ」


「すまん……コヨ」


 三樹が悔しそうに言った。すると村居が続ける。


「こうするしかなかったんだ……」


 その言葉にどう返せばいいのか分からない美雨。


「……あ、操っているのね!! ヴァンズ!! 今すぐ術を解きなさい!!」


「いいえ、彼等は正常ですよ。先日、軽い脅迫はしましたがね……ククク」


「なっ。どうして!!」


 三人の言葉を聞こうと問いかける。だがそこで接近したヴァンズが美雨の腹部を強打する。彼女は突然の激痛に言葉が続かなくなった。


「うぐぅッ……がっ……あ……」


 彼女は意識を失い、地面に倒れた。三樹がヴァンズに向かって言う。


「こ、これで俺たちは!!」


「ええ、もちろんですとも」


「コヨ……お、お前が悪いんだ。俺たちはお前のように才能はない。俺たちはさぁ、低ランクでゆっくりやりたいんだよ……」


 村居は罪の意識に苛まれながらも吸血鬼に確認を取る。


「コヨも……これで彼女も殺さないんだよな!! 約束は守ってもらうぞ!!」


「ええ、ご立派でした。約束通り、貴方たちを救って差し上げますよ」


 次の瞬間、三人は驚きの声を出した。腹部に影が突き刺さり、容易に貫通した。三人は大量に吐血する。


「な……んで……っ」


「約束が……ちが……」


 その姿を見ながらヴァンズは興奮していた。


「いいえ、救って上げましたとも!! 裏切りの罪過からねェ!! くく、愚者に安息を……」


 三人は地に倒れた後、二度と目を開ける事はなかった。演技がかった様子でヴァンズは言う。


「おおォ。約束をした者が亡くなってしまうとは……仕方ありませんね。それでは彼女に関する約束は無効とさせていただきます。この美しくッ、かぐわしい女性は私がじっっくりぃとォ……一滴残らず血を縛り取りますのでご安心くださいぃ」


 日がかげる。赤く染まった空間。それはやがて黒く塗りつぶされていく。愉悦に満ちた表情、両腕を広げたヴァンズは言う。


「ククク、夜の帳が下りるまでもなかったですねェ……所詮は愚かで脆弱な人間。しかし、裏切られる時の表情……いつ見ても美しいですねぇ。たまらなく気持ちいっぃぃ……」


 その時、静寂を切り裂く音が聞こえた。


「お前、本当に異世界から来たのか?」


「……?」


 ヴァンズは背後を振り返る。しかし、そこには誰もいない。やがて視線が一点に集中する。続けて男の声が聞こえたからだ。


「心臓や頭すら潰さずに勝ち誇るとは……こっちに来て平和ボケでもしたか?」


 ようやくそれを理解した。遺体が喋っている。倒れたはずの男がしっかりとした口調で喋りかけてきたのだ。さらにその男に起こっている現象に心当たりがあった。


「……そ、それは再生……ッ」




ご一読いただき、感謝いたします。投稿は21時になります。

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