3 吸血鬼
翌日、五人は集まった。。日差しが強い時間帯だった。
また別の場所で吸血鬼目撃情報があった。美雨は夜空の行動に少しだけ安心していた。昨日に放ったあの言葉に嘘はなく、率先して先頭を歩いていたからだ。心強いと感じていた。
「これはっ……妖刀が疼いている……ッ」
「吸血鬼の場所が分かるの!!」
「ふふ。村正の声が聞こえないか?」
夜空は親指に力を込め、刀を僅かに抜く。シュッと気持ちの良い金属音が鳴る。美雨はそれに気が付いた。柄の部分に見覚えがあった。
「……そ、それ……一番安い刀でしょ。市販のやつ……」
「……は? 秘密の露店で買った妖刀村正だが? ちょっと変な言いがかりはやめてくんなーい?」
「と、とても言いにくいんだけど……多分騙されてるかと……」
「だ、騙されてないしっ。こ、これ妖刀だからっ。だってずっと折れてないしッ」
「う、うん……なら……そうかも……」
男たちは悲しそうに首を横に振る。気まずくなったのか、彼等はしばらく誰とも目を合わさなかったという。
長時間探しても目標は一向に見つからない。日が落ちようとしていた。
「まずいわね……そろそろ切り上げないと」
「妥当だな。その等級での判断にしては上出来だ」
「「「「……」」」」
四人はもうなにも言わなかった。
◇
きりがの良いところで帰ろうとしていた時、なんの前触れもなくそれは現れた。細身に黒いコート。金色の髪に深く恐ろしい赤い瞳。そして、鋭い犬歯が顔を覗かせる。
四人が警戒心を出し、それを凝視していた。
吸血鬼を見た瞬間、美雨の表情は一変した。そこに冷静さはなく、憎悪があった。パーティーメンバーはなにも言わない。慣れているのだろう。
「現れたわね……醜い吸血鬼!!」
「醜い、とはご挨拶ですね……」
吸血鬼は逆に柔らかい声で紳士的に答えた。それを無視して一番槍の夜空が叫んだ。
「参る!!」
攻撃を仕掛けるのに声に出すのは一見愚策に見える。しかし、即興のパーティーなら話は別だ。それは連携の起点となる。それに数の上で有利は取っている。それを愚かと決めつけるのは、早計なのかもしれない。
「単純馬鹿が」
吸血鬼はその行為を愚かだと笑う。敵の周囲。影になった部分から複数の細長い影が伸びるとそれが刃となり、夜空を切り裂く。とどめだと言わんばかりに腹部にそれが刺さった。
「ぐぁっ……」
夜空は激しく吐血した。同時に影の刃など初めからそこになかったかのように消える。そして彼はその場で崩れ落ちる。彼が立ち上がる事はなかった。
「し……んだ?」
「そんな事ってッ……」
「う、うそ……だろ……あんなにあっけなく……」
夜空もハンター端くれだ。そのくらいは覚悟しているだろうと駆け寄る事はしない。いや、できないのだ。下手に動くと彼の二の舞になってしまう。彼の死が美雨を少し冷静に戻した。
吸血鬼は優雅にポーズを決めて紳士的に言う。
「私の名はヴァンズ……以後お見知りおきを」
「いくら紳士ぶろうともその醜い本性は誤魔化せない!!」
美雨が進路妨害してくる影の刃を避けながら接近し、刀で切りかかる。三樹が銃で上手くフォローする事で継続して攻める事ができた。スタミナがなくなりそうな時は六郎と村居に交代する。
間を開けない連続攻撃。剣と槍の見事なコンビネーションでヴァンズを追い詰める。再び交代しようと美雨が距離を詰める。鋭い一撃がヴァンズの頬に掠る。
「ッ……」
不利と感じ大きく跳躍すると、壁に貼り付いた。良く見ると影で脚を支えていた。
「中々やりますね……ならば私も少々本気を出しましょうか」
「無駄よ。貴方の実力の底はもう見えた。これ以上無駄な時間はかけないわッ」
「ひひ。底が見えた? 面白い事を言いますね……」
ヴァンズがどこからともなくトマトのような物を取り出した。
「あれは……?」
「な、なにをする気だ」
迷いなくそれをかじり、咀嚼する。最後には一気に口に放り込む。美味しそうな表情を見せた。
「ふふふ。知らないのも無理はないですね。市場に出回るものではないですから。この実は我等ヴァンパイアに力を与えてくれる実なんですよォ」
美雨は即判断した。
「ッ……養分を完全に吸収するのに時間がかかるはずよ!! 力を得る前に叩く。一……いえ、二ランク上がったつもりで動いて!!」
「ふひひ……惜しいですね。三ランクですよ」
「は?」
ご一読いただき、感謝いたします。投稿は21時になります。