1 吸血鬼退治の依頼
悲劇は転じて喜劇にもなりゆる。ここは地球ではない。とある城で黒い髪の男と白髪の男が対峙していた。
「ていうか……よく考えたら三十分前に倒した方が良い感じで終わったな。悪かった。せめて豪快に散らせてやるよ」
「ッ……舐めるなよッ。下等生物がァ!!」
白髪の男は怒りに身を任せて前進する。その時、彼の全身から血が噴き出した。倒れゆく男は自分がやられたのかも理解できないまま絶命した。
その後、勝利した男は大都市で適当に暮らしていた。ある日、都市から少し離れた森で空間が歪む。
「……まさか……あり得るのか!!」
王国の調査隊が派遣される前に黒髪の男はそこに来ていた。
「異世界を繋ぐゲートか? いや、絶対そうだ。向こうから流れてくる匂い……懐かしい。さて……どうするべきか……」
男は数秒だけ考えた後に言う。
「ク…………ダ……」
男はそう呟くと歪んだ空間の中へと入っていった。
◇
東京から南東に九つの島が突如発生した。そこにはいくつかの”ゲート”も出現する。その島は”ヨモツクニ”と呼ばれるようになる。
そして、いつしかそこには都市ができた。新しい資源の匂いを感知した多くの企業が参入したからだ。
中央に大きな島が一つ。その周辺を囲むように小さな島が存在し、1から16の区に別けられている。そこでも最低限の法がある。しかし、ほとんど機能していないのが現状である。
ある時、それを憂いた者たちが立ち上がった。その島で異世界対策ギルドと呼ばれる機関が誕生したのである。ゲートから入り込む危険な魔物や、亜人、犯罪を犯す者たちを捕縛、あるときは殺すといった仕事をしている。
【第二区】
女性が一人と男性が三人のパーティーがいた。身長は151㎝。藤色の瞳に黒い髪のボブヘヤで帯刀している。彼女がリーダーであり、名は今宵美雨。ギルドに入っており、Dランクの実力をもつ。
つれの男性も剣や銃、槍を持っている。それぞれランク、E-である。
この島では所持が許されている。ギルドという魔物や犯罪に手を染める亜人を討伐する者たちが集まっており、強さをランクで別けている。最高がSSS+からSS、S、Aと下がっていき、最低がFランクである。ただしFには±がつかない。
美雨は受付で依頼を受けていた。受付嬢が言う。
「ランクE+の吸血鬼討伐ですね?」
「はい。お願いします」
「今回の討伐対象は長い事掴まっておりません。もしかしたらランクの引き上げがあるかもしれませんので、十分お気を付けください」
死亡、行方不明者等の被害が増えている。しかし、まだ捕まっていない。そんな状況だ。目標の名はヴァンズ。
「ありがとうございます。それは承知してます。それでは」
受付嬢との会話を終え、パーティーの元に向かう。心配性の六郎が言う。
「吸血鬼か……さすがに厳しくないか?」
「Eランクよ。私たちの実力なら十分よ。仮に一ランク上がったとしてもね」
「それはそうだが……もしもバックに大物がいたら……」
「その時は光の玉を使って逃げるだけよ」
「心配しすぎだぞ六郎。あからさまにやばいのがいたらランク上がるだろう。ギルドの調査を舐めんなって!!」
「そ、そうだな……そうだよな」
「うん。それじゃ行こっか」
情報はギルドが依頼受付の際に教えてくれる。しかし、それを真に受けてはならない。いかに最新の情報に更新しようとも、それは最新ではないのだから。
温かい日差しが辺りを包む。現場付近の聞きこみも含めた情報を頼りに路地裏へと進む。一部綺麗なのにも関わらず半壊した廃墟などにも入り、数時間ほど探すも痕跡がない。
若干疲れが見え始めた頃だった。角を曲がった瞬間、六郎が叫び声をあげた。声を聞き、急いで駆け付ける。
「くっ!! こんなに早く現れるとは!!」
「はっ。六郎ぉぉぉ!!」
角を曲がると六郎が尻もちをついていた。そしてもう一人、黒い髪の男も倒れていた。六郎が情けない声を出していた。
「うわぁ!! ぎぁひぃ!!」
「いてて……」
身長173㎝。細すぎず太すぎない筋肉。帯刀している黒い髪の男がふらふらと立ち上がる。尻もちをついた六郎は叫んだ。
「お、おおおお前が吸血鬼か!!」
突然現れた男は一瞬唖然としたが、すぐに理解する。
「あー? ああ、お前等ギルドの?」
「そ、そうよ。貴方はッ」
美雨は動揺と警戒を強めていた。
「名乗るほどのものじゃないが、誤解は解いておこう。俺が討伐対象の吸血鬼だったらお前は既に死んでいる」
「た、たしかに……」
別の男、三樹が納得した声を出す。
「じゃ、じゃあなんでこんな所に。なにをしている……?」
「俺か? 俺は一流のハンターだ。ここに一流のハンターがいちゃ悪いか?」
ハンターもギルドと同じような仕事をしている。ギルドもハンターも個人で狩りをすることもあれば、数人でパーティーを組んで狩りをすることもある。分かりやすい違いは運営の違いだ。
それは各ギルドやバーの雰囲気で変わる。その者たちが居心地がいいと思えばそこにとどまるだけである。一概には言えないが、どちらかと言うとギルドはパーティーを組む者が多く、ハンターはソロが多い。
ハンターはしがらみが少ない者が多いので、パーティーが足りない時などは、ギルドの者たちも臨時でハンターを雇う事がある。
「じゃ、じゃあ……貴方も吸血鬼を追って?」
「いや? それは知らんけど」
三樹が素直に怒りをぶつける。
「ハンターどうこうの話し要らねぇじゃねぇか!!」
「じゃっ。俺は大事な用事があるから」
安心してようやく立ち上がれた六郎。ぶつかった時のダメージが大きいのか、黒髪の男はフラフラと去って行った。
「あ、あいつ……実はあいつが犯人とかいうことないよな……」
「まさか……」
美雨たちはそのまま継続して調査を開始する。彼女は探すのに夢中になり、いつのまにか三人とはぐれていた。
心配になった美雨が三人を急いで探す。意外にも簡単に彼等は見つかった。
「ほっ……無事だったのね。静かすぎるから心配しちゃった」
三人は緊張した様子だった。
「あ……ああ、大丈夫だ。ちょっと疲れただけさ」
「……そうね。そろそろ切り上げようかしら」
「だな」
そこで美雨が思い出したかのように呟いた。
「……ハンター。今回は長期戦になりそうね。雇うのもありじゃないかな……?」
「や、やめた方がいいと思う……」
「たしかに。下手にパーティーを増やすと連携が取れなくなるからな……」
「でも、もっとランクの高い依頼だと緊急で連携しないといけない時があるし。今から練習するのもありかも」
「そ、そうか……それもいいかもな……」
「ああ……」
◇
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