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義弟がラスボスだったので、死なないために仲良くなります ~いつの間にか執着されていました~

作者: shiryu



「今日、これからお前の義弟となるルドルフだ」


 いつも私には無関心の父親に、ルドルフという少年を紹介されて――私は前世を思い出した。


 私、ローゼ・アハティラは日本から異世界に転生していた。

 しかもその異世界というのが、乙女ゲームの世界だった。


 魔法がある世界を舞台にした乙女ゲームで、私も何回もプレイしたゲームだった。


 ゲームの登場人物、いわゆる攻略キャラの中に、ラスボスがいるのだ。

 それが今、私の目の前にいるルドルフ・アハティラだ。


 身長が低く、私よりも幼く見えるが十二歳で一緒の年齢。


 顔立ちはまだ幼いが整っていて、将来は美男子になるのがわかる。

 産後すぐに孤児院に入れられて、黒髪と黒い瞳というのが忌み嫌われて虐められていたらしい。


 もともとはどこかの貴族の出身で、そこでも黒髪黒目が気味が悪いと言われて捨てられたのだ。


「ちょっと、あなた!? なんでこんな汚らしい子供を……!」

「有用だからだ。それ以外にない」

「何が有用なんですかこの子の……!」


 父親の勝手な決定に、母親が声を荒げて怒っている。

 アハティラ辺境伯家ではいつも通りの光景で、私は慣れてしまっている。


 父親がうるさそうに顔をしかめながら部屋を出て行って、母親がそれを追いかけていく。


 部屋に残ったのは前世のことを思い出した私と、孤児院から連れてこられたばかりのラスボスのルドルフ。


「……」

「えっと、よろしくね」


 十二歳まで孤児院で過ごしていたルドルフは、誰にも心を開かない。

 それはゲームの知識とは知っていたけど、ここまで冷たい目をしているとは思わなかった。


 物心がついた頃から虐められていたから、当然のことだと思うけど。



 ルドルフの案内を使用人に任せてから、部屋に戻って状況をまとめる。


 私の名前は、ローゼ・アハティラ……確か、ゲームには名前だけ出てくるキャラだ。

 特にヒロインとか、悪役令嬢とかでもない。


 ただ……物語が始まる前に、ルドルフに殺されているとの情報があるだけ。

 ルドルフを孤児院から引き取ったアハティラ家、理由は彼が黒髪黒目で闇魔法を使えるからだ。


 この世界には魔法があり、いろんな属性があるのだが闇魔法は伝説に近い魔法だ。


 とても強力で多様性が高い属性なのだが、人を操ったりする魔法が使えるということもあり、悪魔が使う魔法と言われている。


 悪魔なんてこのゲームの世界にもいなかったはずだけど。


 孤児院で闇魔法が使える子供がいるという情報を、私の父親が密かに掴んで引き取ったのだ。

 アハティラ家の当主である父親は、とんでもない悪人なのだ。


 いつかこの国を裏から牛耳ってやろう、と思っているくらいの悪人で、だから闇魔法が使えるルドルフを駒にしようとした。


 しかし、それは完全な失敗に終わった。


 ルドルフが、アハティラ家の人間を全員殺したから。


「うん……そうよね。思い出してきたわ」


 私の母親、アハティラ夫人は癇癪持ちで気に入らないことがあれば直ぐに怒る。


 さっきみたいにお父様に怒ったり使用人に物を投げつけたりするのはよくあることだ。


 そんなアハティラ夫人が、孤児院出身で黒髪黒目のルドルフを気に入るわけがない。

 ルドルフが今後、暴力を振るわれるのは避けられない。


 そして使用人にも気味が悪いと言われて、ほとんど無視され続けられる。


 父親はルドルフの闇魔法以外に興味がないので、ルドルフが母親や使用人に嫌われていても何もしない。


 そして、私は……。


「私もゲーム中では、鬱憤を晴らすために虐めていたのよね……」


 アハティラ家での私の立ち位置は、アハティラ家を成り上がらせるための道具だ。

 私はいろんな習い事をしているが、それは全て政略結婚のためだった。


 今はまだ相手も決まっていないし、ゲーム中では相手が決まる前に殺されてしまったけど。


 父親は私のことには興味ないし、母親も父親よりかは興味を示してくれるが……時々、私にも暴力を振るってくることがある。


 十二歳の私は母親に抵抗もできず、父親に言っても無視される。


 そして作中の私は母親から受ける仕打ちの鬱憤を、ルドルフに当たることで晴らしていた。


 ルドルフは私からの暴力や虐めを受けても何も言わなかったから、いい憂さ晴らしになっていたのだろう。


「そんな生活を続けて……確かルドルフが十五歳の時に、アハティラ家の人間を全員殺すのよね」


 つまり三年後、ルドルフは闇魔法で私達を殺すのだ。

 アハティラ辺境伯家の私達だけじゃなく、虐待を見過ごしていた使用人も全員。


 そりゃずっと虐待される生活を強いられたら、殺意が溜まっていくのも仕方ないだろう。


 闇魔法を用いて屋敷内にいる人間を全員殺して、その証拠も全て闇魔法で隠滅する。


 そしてまた一年後、ルドルフが十六歳の時に、辺境伯領から出て王都に向かうのだ。

 王都での魔法学園に入る。そこがゲームストーリーの舞台だ。


 そのまた一年後、ルドルフが十七歳の時に主人公の女の子が入学してきて、原作ストーリーが開始される。


 ルドルフは最初は攻略キャラに含まれておらず、分岐するストーリーで最後にラスボスとして出てくる。


 闇魔法を使って王国を滅ぼそうとする侵略者となって。

 ルドルフを倒してゲームクリア、という感じだったはず。


 だけど全ての攻略キャラのストーリーをクリアすると、ルドルフの攻略ルートが出てくるのだ。


 その攻略ルートを、私は……。


「やってないのよね……」


 私はこのゲームのガチでやっていたわけじゃなく、適当に気に入ったキャラしか攻略していない。

 だからルドルフのストーリーを知らないので、彼をどうやって落とすのかがわからない。


「こんなことなら全ルートクリアしていれば……!」


 そうすればルドルフの攻略がわかって、私は殺されずに済む。

 いやでも……別にルドルフを攻略しなくてもいいんだ!


「そう、私が目指すのはまず殺されないこと。ルドルフに暴力を振るわない、彼と仲良くなれば殺されずに済む……はず!」


 うん、そうよ。そうに違いないわ。

 だから私がやることは……まず、ルドルフと仲良くなること!



 そう思って、私はルドルフと仲良くなろうとするんだけど……。


「ルドルフ、一緒にご飯を食べましょう」

「……」

「今日はいい天気よ、お庭で遊ぶのはどう?」

「……」

「私のことはお姉さん、って呼んでね。あっ、お姉ちゃんでもいいよ? むしろそっちの方が可愛くていいかも」

「……ん」


 全く話してくれない……!

 いや、私の目を見て時々反応してくれるんだけど、会話にはなってない。


 だけど私はこれくらいじゃめげない。


 孤児院でもずっと一人で心を開く相手がいなかったルドルフと、そう簡単に仲良くなれるとは思っていない。


 ルドルフと仲良くなるまで、根気よく頑張るしかない。


「よろしくね、ルドルフ!」

「……ん」


 私が笑みを浮かべて話しかけると、ルドルフは無表情のまま軽く頷いた。

 うん、今はこれくらいでいいわよね。


 徐々に仲良くなっていこう。



 そして、ルドルフがアハティラ家に来てから数週間が経った。

 もちろんその間、私はルドルフと仲良くなった……とは言えない。


「ルドルフ、今日は庭で魔法の練習をするの。一緒にしない?」

「……いいよ、姉さん」


 最初の時よりかは反応してくれるようにはなったけど、仲良くなったかと言われると首を傾げるしかない。


 ルドルフは表面上は軽く笑みを浮かべているが、目が全く笑っていない感じだ。


 ゲーム中でもそこまでフレンドリーな感じではなかったけど、まさかここまでとは。


 心の内とかはわからないし……ゲームでは好感度メーターみたいのが見えたのに。


 ルドルフは攻略キャラじゃないから見えなかったけど。

 今はどのくらいの好感度なんだろう? 殺されない程度にはなっているのかな?


 そう思いながら庭に出て、私は魔法の練習をする。


「ルドルフは、魔法の練習をしないの?」

「僕はいい」


 ルドルフは私の前で魔法の練習をしない。

 いや、もしかしたらまだこの家に来てから、魔法の練習をしていないのかも。


 闇魔法は扱いが難しいらしいけど、どうなんだろう。


 仕方なく私は一人で魔法の練習として、魔力を身体の中で循環させる。

 ルドルフは私の側の地面に座って、ボーっと空を眺めているようだ。


 そうしていると、ルドルフがいきなり「あっ」と声を上げた。


「どうしたの?」

「……木の上に猫がいる」

「えっ、どこ!?」


 ルドルフが庭の木の上を指を差していて、そちらを見ると確かに猫がいた。


「わぁ、可愛い……小さい子猫ちゃんだ」

「……」


 しかし結構上の方にいるわね……あれ、もしかして降りられなくなっているのかな?


 よし、助けよう!

 前世の私だったら絶対に無理だろうけど、今は魔法で身体強化もできる。


「よいしょ」

「えっ、何しているの?」

「何って、降りられなくなっているみたいだし、助けに行くのよ」

「……そう」


 ルドルフにそう言ってから、私は木を登っていく。

 身体強化のお陰でするすると登っていき、すぐに猫がいるところの枝まで来た。


「怖くないからねー。動かないでねー」


 私は優しくそう声をかけながら子猫を抱えた。

 これで降りれば大丈夫、と思って下を見たら、結構高い。


 あっ……そういえば私、前世から高所恐怖症だった。


 いまさらながら、恐怖で足が震えてくる。


 そこで両手で抱えている猫が暴れてしまって……。


「あっ……!」


 枝から体勢を崩して、後ろ向けに地面へと落ち始める。

 ヤバい、高さは数メートルあった。身体強化をしていても死ぬ高さかも。


 せめて子猫だけは、と思ってぎゅっと抱きしめて衝撃に備えていると……。


 ぽすん、という音ともに背中から着地した。


「えっ」


 さすがに地面がこんなに柔らかいわけがないと思って、下を向く。


 するとそこには、黒い何かがあった。

 庭の地面は草や土なので、こんな真っ黒ではない。


 黒くて大きな手のようなものが、地面から出ている感じだ。


 これはもしかして、闇魔法の『黒の手』?


 私もゲームは何回かやったことあるから、『黒の手』が闇魔法だということがわかる。

 ラスボス戦では何度も苦しめられたものだ。


 ということは、誰がこの手を出してくれたのかはすぐにわかる。


「ルドルフ……!」

「っ……」


 ルドルフを見ると、少し青ざめた表情で私の方に両手を向けていた。

 慌てて慣れていない魔法を唱えたから、顔色が悪いのだろうか。


 彼が両手を下げると、黒の手がふっと消えて私は地面に無事に着地ができた。


「ルドルフ!」


 私が猫を抱えたまま彼に近づく。


「ありがとう!」


 笑みを浮かべてお礼を言ったら、ルドルフは目を見開いた。


「……えっ」

「ルドルフが助けてくれなかったら、大怪我するところだったわ。本当にありがとう!」

「……」

「ん? どうしたの?」


 なんだかとても意外そうな顔をしている。


 えっ、もしかして私がお礼を言ったことに驚いているの?

 私、そんなにお礼を言わなそうに見えた?


 そんな冷たくてひどい人間に見えていたのなら最悪だ。


 まだルドルフに私の人となりが全然伝わっていないということだから。


「ルドルフ、私は助けられたらお礼くらい言うわよ」

「……そう、なんだ」

「そう、当たり前よ。だからあなたも、誰かに助けられたらしっかりお礼を言うのよ」

「うん……そうだね。僕は、言うことにするよ」


 いつもよりも口角を上げて、ルドルフはそう言った。

 何か含みがあるような言い方だった気がするけど……まあいいわ。


「ルドルフ、子猫よ。とても可愛らしいわね」

「うん。だけど姉さん、めちゃくちゃ威嚇されてない?」

「されてないわよ、これくらいは普通……痛っ!? か、噛まないで、子猫ちゃん!」

「ふふっ……」



◇ ◇ ◇



 僕が、アハティラ辺境伯家に引き取られてから二年ほど経った。


 ここは孤児院よりかは、生きやすい場所だった。


 孤児院は僕の髪色と目の色が黒だから、自分よりも年上で身体がデカい奴らに虐められた。


 僕以外にも虐められている子供が何人かいて、その子達とは多少は仲良くしていた。


 毎日、生傷が絶えない生活だった。


 しかし十二歳の頃、僕の身体に闇魔法が目覚めた。

 その闇魔法を操って虐めてきた奴らに仕返しをしてやった。


 今までの分も合わせて、もう立ち向かってこないように、恐怖を覚えさせるように、徹底的にやりつくした。


 そして一緒に虐められていた子達に「もう大丈夫」と思って、振り返ると。

 その子達は、僕を虐めてきた奴らを見るかのような目で見てきた。


『ば、化け物……!』


 自分のためにやったことで、感謝されたいとは思っていなかった。

 やり返していた時は自分でも随分と痛めつけたから、引かれるのは当然だろう。


 だけど……まさかあんな目で見られるとは、思ってもいなかった。


 当時のことを今も思い返すと、胸が痛む。

 夢にまで見て、寝られない夜もあった。


 だが最近は、そんな夢を見ることも少なくなった。

 孤児院じゃなくて辺境伯家に来たから、という理由もあると思うが。


 一番の理由は……。


「ルドルフ!」


 部屋で静かに本を読んでいると、バンッとドアが開いて一人の女性が入ってくる。

 赤髪で腰まで伸びている髪を揺らしながら近づいてくる女性、姉さんのローゼだ。


 大きくてパッチリとした目、青い瞳が僕を見て微かに細くなる。


「ルドルフ、今日はいい天気よ。外で魔法の練習をしましょう」


 姉さんは僕がこの家に来てからほぼ毎日、魔法の練習に誘ってくる。

 僕から言わせればそこまで魔法の才能がないのに、なんでそんなに練習するのか。


 前に問いかけたら、


『だって魔法がある世界よ? 魔法を使わないと!』


 と、よくわからないことを言っていた。

 貴族にとって、魔法があるのは普通じゃないのか?


 だけどよくも飽きずに練習をしている。とても魔法が好きなようだ。


「わかった。だけど僕は外で魔法の練習しないよ」


 闇魔法はあまり人に見せるような魔法ではないし、見せたいとも思わない。

 部屋で一人で練習はしているけど。


 強くなったら、虐められなくて済むから。


「うん、わかっているわ。でも今日も面白い魔法を思いついたのよ!」

「はいはい、またしょうもないやつでしょ」

「今日のはすごいんだって!」


 姉さんはそう言って自信満々に笑う。

 姉さんの笑顔はとても柔らかくて、見ていて安心する。


 あの夢を見なくなった代わりに、夢でこの笑みを見ることが増えてきた。


 自分がどんな感情を抱いているのか、なんとなくわかっている。


 本当は抱いちゃいけない感情なんだろうと思う。

 でも、この想いを打ち明けることをせずに秘めているだけだったら、問題ないだろう。



 庭に出て、姉さんが両手を前に出して集中する。


「見ててね」


 姉さんが使える魔法はいくつかある。でも魔力量が低いから、そこまで強くて大きな魔法はできない。

 でも魔力操作は上手いので、魔法を複合させていろんなことができる。


「むむむ……よし! ほら、触ってみて!」

「この宙に浮かんでいる水を?」

「うん!」

「……なんか熱い」

「火と水の魔法を混ぜて、水の温度を上げてみたの! これでお風呂の水はすぐにできるし、熱湯も簡単にできるわ!」

「うん、やっぱりしょうもないね」

「嘘でしょ!? これならいつでもお風呂は入れるし、いつでも紅茶も飲めるのよ!」

「姉さんって前から思ってたけど、魔法を庶民的なことに使うよね。身の回りの生活を豊かにするため、って感じだけど」

「確かにそうね。ここは不自由なことが多いから」


 姉さんはそう言って笑って、空の遠くを見つめる。

 彼女は時々、この世界では満足できないというような表情をする。


 どこかもっと便利な世界を見てきたかのように。


 そんな目をすると、姉さんがどこかに行ってしまうかのような焦燥感に似た感情になる。


「……それなら、自分で便利な道具を作ればいいんじゃない?」

「えっ?」

「姉さんは魔法も上手くないし、威力もそこまででもないし、魔力量も大したことないし、無駄に複数の属性魔法が使えるだけだけど」

「貶してる? 褒めてる? どっちなの?」

「けど、魔法の緻密な操作は上手いよ。多分俺と同じくらい」

「ルドルフと同じくらい? でも私、あなたがどれくらい上手いか知らないわよ?」

「僕はかなり上手いよ。最強に近いかも」

「ふふっ、それならいいわね。来年には最強になれる?」

「多分ね」


 姉さんは僕が十五歳の時には最強になると思っているようだ。よくわからないけど。


 なぜか姉さんは魔法に関しては俺のことをとても信用してくれている。

 僕がどうやって練習しているのか、どれほど強いのかもわからないはずなのに。


 なんでそんなに信用するのかと聞いたことがあるけど、


『そりゃラスボ……ル、ルドルフだからよ』


 と言われてたけど、なんか誤魔化している風だった。


「だから魔具開発の仕事とかに就けば、自分で便利な魔具を作ればいい。それこそすぐにお湯ができる魔具とかね」

「なるほど……それだわ!」


 姉さんは目を輝かせてそう言った。


「確かに今までは自分一人の力だけで生活を豊かにしようとしていたけど、魔具を作ればいいのね。そうしたら私の大したことない魔力量でもいろんなことができるし、いちいち魔法を頑張って唱える必要もないんだわ!」

「確かに作れればそうだけど、作るのが大変だと思うけどね」

「そ、そうだけど……でも頑張るわ! 学園に通い出したら何をしようかと思っていたから、学びたいものができて嬉しい!」


 姉さんは振り返って、僕に笑みを浮かべた。


「ありがとう、ルドルフ!」

「……何もしてないけど、どういたしまして」


 姉さんの笑みは、やっぱり心が温かくなる。

 胸が高鳴るのを少しだけ抑えて、僕も彼女と同じような笑みを浮かべる。


 血が繋がってないから、笑顔は全く似ていないけどね。


「よし、じゃあ早速今から魔具の勉強を……」

「ローゼ!」


 姉さんの言葉と行動を遮るように、遠くから怒鳴り声が聞こえた。


 見なくても声でわかるが、屋敷の方から母親が近づいてきているのが見える。


 俺も姉さんもげんなりした顔になる。

 特に姉さんはため息をついて、憂鬱そうな表情になった。


 だがすぐに作り笑顔を浮かべて、母親の方を向いた。


 僕は姉さんのそんな表情が見たくなくて、顔を背けた。


「ローゼ、あなたはまた庭で魔法の練習をしていたの?」

「はい、お母様。そうです」

「なんて無駄なことを……そんな時間があるのなら、花嫁修業でも何でもできるでしょう」


 花嫁修業……それこそ無駄なことだとは思う。


 この辺境伯家は僕と姉さんのことを、成り上がるための道具としか思っていない。

 道具にするために孤児院から引き取った僕はまだわかるが、姉さんですら政略結婚の道具としか思われてないのだ。


 最初にそうだとわかった時は、アハティラ家の両親が気持ち悪くてしょうがなかった。


 なぜ実の娘までも、そんな酷い扱いができるのか。


 姉さんはそれをわかっていながらも、両親に嫌われたくないからか従順な振りをしている。


「それにその黒い子とまた一緒にいて……! 来なさい!」


 僕はまだアハティラ夫人にここの家族だとは認められていない。

 それはおそらく、父親のアハティラ辺境伯もだろう。


 そもそも両親二人に、家族という認識があるのかは知らないが。


 僕も家族というのはあまりわからないが……いるとしたら、姉さんだけだ。


 その姉さんは母親に言われるがまま、一緒に屋敷の方へと向かっていった。


 一瞬だけ振り返って、僕の方に両手を合わせて「ごめんね」と口パクをした。

 そんな仕草も愛らしいと思いながら、僕も笑みを浮かべて軽く手を振った。



 その日の夜、僕は夜遅くまで庭で闇魔法の練習をしていた。


 闇魔法は夜の方がなぜだか効果が上がるから、夜遅くに練習することが多い。


 いつもはここまで遅くはやってないんだけど、今日は姉さんの魔法を見た時に少し負けたと思ったから。


 姉さんの前では「魔力操作は僕と同じくらい」と強がりで言ったけど、姉さんの方がおそらく上だったから。


 姉さんはその言葉を信じてくれたけど、僕は負けず嫌いだし……せめて自分の口から出た嘘を真にするために、魔力操作の技術を上げなければ。


 そう思いながら屋敷の中を歩いていると、父親の執務室から光が漏れているのが見えた。

 こんな遅くまで仕事を? いや、あの人はそこまで勤勉ではないはずだ。


 闇魔法を駆使して姿と気配を消しながら部屋に近づく。


 近づいてドアを軽く開けると、中から声が響いてくる。


「あなた、あの子はいつまで家にいるのよ。あんな黒髪で黒目の子がいたら、うちの評判は下がるわよ!」

「何度も言っているだろ。あれはアハティラ辺境伯家のために必要なだけだ」


 どうやら父親と母親が言い争いをしているようだ。


 それに話題は僕だから、いつものことだ。


 母親は何回、僕を追い出そうとすれば気が済むのだろう。


「それと黒髪黒目についてお前がどう思うが勝手だが、外で忌避していることを言うなよ。今の貴族社会では黒髪も黒目も珍しくない。同時に持っているというのが珍しいだけだ」


 えっ、そうだったんだ。それは僕も知らなかった。

 てっきり黒いというだけで忌避されていると思っていた。


「同時だから気持ちが悪いんじゃないですか! それにあの子は闇魔法も使うのでしょう!?」

「ああ、それがいいのだろう。闇魔法は使えるからな」


 嫌な顔でニヤついたアハティラ辺境伯。何度か見たことがあるけど、本当に気味が悪い。

 僕を孤児院で見つけた時も、こんな顔で笑っていたな。


「闇魔法は極めれば人を操れる魔法が使えるようになる。記憶の操作も思いのままだという。それほどの魔法があれば、アハティラ辺境伯家が天下を取るのも夢物語じゃないだろう」


 はっ、闇魔法にそんな力が本当にあるとでも思っているのだろうか?

 僕の感覚的には、人を操ることは多少はできる。


 でもそんな汎用性が高いものではなく、ただ命じたことをするだけの操り人形になるくらい。


 一つ「皿洗いをしろ」と命じたらできるけど、それだけ。


 一度魔法をかけたらずっと操り人形になる、というものでもない。

 記憶の操作は絶対に無理だ。できても記憶の消去くらい。


 それも多分緻密な操作が必要だから、記憶の全部を消去して廃人にする可能性が高い。


 まあ、どれもこのまま順調に育てば到達できるくらいで、今は全然できない。


「闇魔法があれば、チマチマと裏で手を回さずに済むんだ」


 やはり、アハティラ辺境伯は夢物語をずっと見ているようだ。

 そもそも僕をどうやって操るつもりなのか。


 ここに来た時、孤児院よりも地獄に来たかもしれないと思っていた。


 拷問のようなことをされて命令を聞かせるように調教するのかと。


 でも、僕は特に何も受けていない。


 母親からは無視されているが、姉さんもいるから問題ない。


 むしろ父親からは物を贈られたりして、良い思いをしている。

 こんな汚らしい野望を、多少良くされた程度で僕が手伝うとでも思っているのだろうか?


「あっ、あなた。そういえばローゼのことなんだけど」

「ん、なんだ?」

「あの子が魔法学園に行きたいとか言っていたから、叱っておいたわ」

「っ……」


 驚いて声が出るところだった。

 普通の貴族なら魔法学園に行く人の方が多い。


 姉さんの魔法の才能は僕ほどはないが、それでも全体で見れば上位のはず。


 なぜ魔法学園に行きたいというだけで、叱ったんだ?


「魔法学園なんて、政略結婚に関係ない魔法を学ぶだけでしょう? 時間の無駄、最悪じゃない」

「ああ、そうだな。魔法学園なんかに行かなくても、俺が結婚相手を選んでやれる。一番の候補はチリカース公爵家だな」

「あら、あそこの令息はもう四十歳を超えていなかった? 女性関係の悪いうわさも絶えないわ」

「別に問題ないだろう。あそこと繋がればアハティラ家の権力が上がる」


 ――今、ここで暴れ出したい気分だ。


 こいつらは、何を言っているんだ。


 本当に、自分達の娘に対してそんな仕打ちを……!


「まあ、それもそうね」

「今問題なのは、それこそルドルフだ。あいつが闇魔法をどれくらい扱えるのか、それでどれほどこちらの言うことを聞くのかを確かめなければならん」

「言うことを聞かせるために何かしたの?」

「多少はな。贈り物をしただろう」


 本当に、あの程度で僕が言うことを聞くと思っていたのだろうか。


「その程度で言うことを聞くの?」

「いや、そうは思わん。だがローゼの話では、まだルドルフは闇魔法を操り切れていないと言っていた」


 ……えっ?

 姉さんが、僕が闇魔法を操れていないって?


 僕はそんなこと言っていないし、闇魔法も問題なく操れている。


「まあ、そうなの?」

「ああ。だから今、調教のようなことをしたら闇魔法が暴走する可能性があると。だから十五歳くらいになるまで待った方がいいと言われてな」

「なるほどね、無駄にあの黒い子と一緒にいるローゼが言うことならそうなのかもしれないわね」


 ……そういう、ことだったのか。

 姉さんは僕が闇魔法を操れることを知っていながら、僕を守るために両親に嘘をついていたのか。


 だから今、どれくらい闇魔法が使えて、十五歳になるまでに最強になるようにと暗に伝えてくれていたのか。


 姉さん……。


「だがもう待てないな。明日にでも調教を始めた方がいいだろう」

「あっ、それならローゼもやった方がいいわ。あの子、魔法学園に行くことを諦めていなさそうだし。私が頬を叩いても生意気な目つきが変わらなかったの」

「お前、何回も言っているが顔には傷をつけるな! 傷でも残ったらどれだけ価値が下がるのか――」


 不愉快な会話を聞いておられず、僕は姉さんの部屋に走り出した。


 あの母親が、姉さんの顔を叩いただと?

 姉さんの部屋について、また闇魔法で気配と姿を消して入る。


 すでに姉さんは眠っているのか、部屋は暗い。


 闇魔法で夜目も効くので、問題なく彼女が眠るベッドに向かう。


 そして、見えた。

 寝ている姉さんの頬に、ガーゼが貼ってあるのを。


 その瞬間、僕は闇魔法を解放した――。



◇ ◇ ◇



「うーん……!」


 私は朝起きて、ベッドの上で上体を起こして背伸びをした。


 うん、昨日叩かれた頬の腫れはもう引いているわね。

 お母様には何回か叩かれたことはあるけど、今回は一番腫れが酷かったからどうしようかと思ったわ。


 これでルドルフに心配させずに済む。


 そう思いながら立ち上がり、朝の準備をするために使用人を呼ぶベルを鳴らした。


「お、お嬢様!」

「えっ、何?」


 とても慌てた様子の使用人が入ってきて、ビクッとしてしまう。


「どうしたの?」

「そ、その、ルドルフ様が、当主様と奥様を……!」

「ルドルフが? どういうこと?」

「せ、説明が難しくて」

「……わかったわ。とりあえず案内して」


 私はガウンを羽織ってから部屋を出て、使用人に案内させる。

 向かうのはお父様の執務室。


 執務室の前には多くの使用人が固まっていて、中を覗いている。


 ドアが壊れていて床に転がっているのが見えて、驚いて私も中を覗いた。


 そこにあった光景は……。


「うぅ……」

「俺は当主になるために父親を殺して兄二人を殺しました。他にも同業の目障りな貴族、カリメル伯爵とロベルタ子爵を殺すように暗殺を依頼しました。他にも邪魔だったアベルト伯爵を――」


 母親の顔が腫れあがって倒れていて、父親は虚ろな目で正座して何か懺悔のようにぶつぶつと呟いていた。


 えっ、何この状況?


「姉さん、来たんだね」


 私は呆然と両親を見ていたけど、部屋の壁側に立っていたルドルフに話しかけられてハッとした。


「ルドルフ、これはあなたが……?」

「そうだよ。姉さんに酷いことをしたこいつらに、身の程をわきまえてもらったんだ」


 ルドルフは軽く笑っているが、ちょっと怖い。

 もしかしてこれから、私も同じ目に遭うと少し思ったから。


 原作ではルドルフがアハティラ辺境伯家の屋敷の者達を皆殺しにしている。


 もちろん、私含めて。

 あれは十五歳の時だけど、私というイレギュラーが入ったからその時期が早まった……みたいなことがあるかもしれない。


 でも今のルドルフと接してみて、あまりそういう雰囲気ではない。


 もうすでに少しスッキリしたような表情だ。


「身の程って……」

「夫人は姉さんの顔を叩いたみたいだからね。問い質したら今回が初めてじゃないってことだし、とりあえず何回もやっといた」


 ああ、だからお母様の顔が腫れ上がっているのね。

 私も数えきれないくらい叩かれてきたから、別にいいとは思う。


 でもあそこまで膨れ上がるのは、闇魔法の力なのかしら?


「それで、お父様は?」

「あれは闇魔法で人を軽く操れる魔法があってね。だけど一つの命令しかできないから、『自分の罪を言え』って言ったんだ。そしたら出てくる出てくる」

「そ、そうなのね」


 いつから言っているのかはわからないけど、本当にすごい言っているわね。

 どれほどの人を殺してきたのだろうか。


「まさかここまで出てくるとは思っていなかったからなぁ。少しビックリ」

「そうね……ルドルフ、なんでいきなりこんなことを?」


 ルドルフが闇魔法でそれくらいできることは知っている。

 いや、正確に言えば原作知識で知っていただけで、すでにこんなに闇魔法を操れていることには少し驚いている。


 でも、なんでいきなり一晩で辺境伯家を潰そうとしているのか。


 原作ではもう一年は後だったし、しかも普通に両親を生かしている。


「それは、こいつらが姉さんを叩いたって聞いて」

「えっ?」

「それに姉さんを魔法学園に入れずにキモイ奴に嫁がせるつもりだって言ってたし。姉さんのやりたいことを聞かずに。だから、絶対に許せないと思ったから」


 ルドルフが私の目を見つめて、真剣な表情で言った。

 まさか私のために怒ってくれて、ここまでしてくれたとは。


 全く想定していなかった答えだったので驚いたが、素直に嬉しかった。


「ありがとう、ルドルフ。姉さんのために怒ってくれて」


 私がお礼を言うと、ルドルフは少し目を開いてから優しく微笑む。


「だって俺は姉さんの家族だから」

「ふふっ、そうね」


 最初は私が生きるために、殺されないためにルドルフと仲良くなった。

 でも接するうちにルドルフはとてもいい子で、優しい子だということがわかった。


 彼が原作でラスボスになって世界を滅ぼそうとするとは全く思えないほどだ。


 この子が最後の隠し攻略キャラになるのもわかる。


 私も弟として接してなければ、惚れていたかもしれない。


「さて、それじゃあ……」


 私はルドルフから視線を外し、床に転がっているお母様と、まだ懺悔しているお父様を見る。


「この後始末、どうしようかしら」

「どうしようね」

「ルドルフ、あなたがやったんじゃない」

「そうだけど、まさかここまでヤバいことをアハティラ辺境伯がやっているとは思わないじゃん」

「そうよね……」


 私もなんとなく知っていたけど、使用人が全員いる手前で全部暴露しているから、このまま何もしないというわけにはいかない。


 絶対に面倒なことになるけど……。


「聞かなかったことにはできないわよね?」

「できないね」

「はぁ……」


 私はため息をついて、ルドルフは苦笑した。



◇ ◇ ◇



 アハティラ辺境伯家の当主、お父様を告発してから三年が経った。


 私とルドルフは、十七歳になった。

 この三年間、いろんなことがあったわね……。


 とりあえず、お父様は捕まって処刑された。


 あれほどのことをやっていたのだから、それがバレたら処刑されるのは当然だろう。


 お父様と親しくしてなかったし、悪人だとは思っていたから全く悲しくはなかったわね。


 お母様はアハティラ辺境領の田舎にある家で暮らしてもらっている。


 あの人もお父様の所業を知って見逃していたから、今後アハティラ辺境伯家の権力などを使えることはない。


 捕まって獄中暮らしじゃないだけマシだろう。


 それで、アハティラ辺境伯家は……私が当主になった。

 自分で言うのもなんだけど、なんで私?


 絶対にルドルフがなると思っていたんだけど。


『僕はもともとアハティラ家の人間じゃないし、辺境伯家の当主は姉さんが相応しいよ』


 とルドルフに言われて、私になってしまった。


 最初はめちゃくちゃ大変だったけど、使用人も新たに多く雇って手伝ってもらって、問題なく領地経営はできている。


 というか、領地経営はルドルフに手伝ってもらって、部下にも優秀な人がいるからほぼ任せていて……私は名ばかりの辺境伯家当主みたいな?


 なんで本当に私が当主なんだろう。


「姉さん、遠い目をしているようだけど、どうしたの?」


 私が歩きながら考え事をしていると、隣で歩いているルドルフに問いかけられた。

 彼も十七歳になって、原作ゲームに登場した容姿になったわね。


 とても大人っぽくなり、カッコよくなった。


 今は二人で王都の魔法学園に入学して、王都の屋敷で一緒に暮らしている。


 もちろん使用人が何人もいるような屋敷だから、二人暮らしなどではない。


「いえ、今日からの魔法学園が心配でね……」

「ただ二年生になっただけでしょ?」


 私達はもう二年生となり、原作が開始される年齢になった。

 つまり、今日から原作の主人公が編入してくるのだ。


 いろいろと心配事が多いわ……。


 主に、ルドルフがラスボスにならないかどうか。

 原作の主人公がルドルフの攻略ルートを選ばないと、もしかしたら彼は原作通りにラスボスとなってしまうかもしれない。


 いや、そんなことは絶対にさせないけど、警戒して損はない。


 だからできれば主人公には、ルドルフの攻略ルートに入ってほしい。


「そういえば姉さん、今年は数人の編入生がいるらしいよ。しかもその中に平民の女性がいるって」

「っ、そうなのね」


 ルドルフから原作主人公の話を振ってくれるとは、ありがたい。

 ほとんど貴族しか入れない魔法学園に入ってくる平民の女性、それが原作主人公だ。


「平民が魔法学園に入るのはとても難しいから、とても努力したんでしょうね。頑張り屋さんだわ。きっと貴族令嬢が持っていないような可愛らしい雰囲気も持っているわね」

「えっ、姉さん、その平民と知り合いなの?」

「いや、知らないけど」

「じゃあ今の憶測は何?」


 そりゃ原作知識よ、とは言えない。


「適当だけど、当たっている可能性が高いと思うわ」

「よくわからないけど……」

「それにルドルフもその平民の子は気になるんでしょ?」

「まあね。数十年ぶりの平民の生徒って話だから、気になるでしょ」


 ふむ、やはり主人公にもうすでに気があるのね。

 最初はただの好奇心なんだろうけど、それから恋が芽生えていくという感じだろう。


 それなら早めに主人公に話しに行って、接点を増やすのはいいかも。


 でもルドルフは一番最後の攻略キャラだから、そう簡単に主人公を結ばれないと思うけど……。


「ルドルフ」

「なに?」

「あなたはいつか恋をして、失恋するかもしれない」

「……なんか話の流れ的に、僕が平民の生徒に恋するみたいになっているけど」

「でもその時に世界に絶望して、世界を滅ぼそうなんて思っちゃダメだからね!」

「よくわからないけど……姉さんってなんか、僕のことを世界の敵だと思っている節があるよね」

「そうは言ってないわよ。でもできるくらいの力はあると思っているわ」

「まあ、否定はしないかも?」


 そこは少し否定してほしかったわ……。


 でもその力が闇魔法にあるからこそ、ラスボスとなりえたのだろう。


「本当にダメだからね!」

「はいはい、するつもりは一切ないから安心して」


 ルドルフはそう言ってにこやかに笑う。

 彼のことは信用しているけど、原作があるから安心はできないわね。


「ルドルフが恋したら教えてね。全力で応援するから!」

「……なんだか複雑だね」

「家族だからといって、恥ずかしがらずに遠慮しないでいいのよ」

「そういう意味じゃないから」


 恥ずかしいから相談しない、という意味じゃないの?

 あっ、女性を落とすくらいは自分でできると思っているのかも。


 確かにルドルフはカッコよくて、魔法学園でも女性人気があるけど。


「学校で人気があるからって、あまり自分を過信しないようにね」

「過信なんてしないよ。ただ僕は、執念深いとは思うけどね」

「執念深い?」


 私がそう聞き返すと、ルドルフはニヤッと笑った。


「うん、自分でもそう思うよ。顔だけ見て近寄ろうとしてきた奴は近寄らせないし、結婚すれば辺境伯家の当主になれると思っている奴なんてぶん殴ったこともある」

「えっ、あなた、令嬢を殴ったことあるの!?」

「……さすがに令嬢は殴ったことないよ」

「でも今、殴ったことあるって」

「今のは姉さんに近づいてきた男を殴ったって話」

「なんでいきなり私の話に? それにあなたが男を殴ったって話、聞いたことないけど」

「そりゃもちろん、脅したからね」


 ニヤッと笑ったルドルフ。

 ルドルフは両親の時もそうだけど、敵だと判断したら容赦はしないタイプね。


 義弟だから私は敵ではないと思うけど、世界の敵に回ったら怖いわね。


「あまり悪さはしちゃダメよ? 世界を滅ぼさないようにね」

「だからなんで世界を滅ぼすことになるの……」

「あなたは意外と大胆で行動力があるから、もしかしたらと思ってね」


 原作ではラスボスになっていたし。


「はぁ……じゃあ、姉さん」


 ルドルフは一歩私の前に出て、手を差し出してくる。


「そんなに心配なら……姉さんが、僕の手綱を握っておけばいいんじゃない?」

「……それで、手を繋げと?」

「うん」

「もう学園に着くけど」

「繋いでくれないなら、世界を滅ぼすけど」

「そんな気軽に滅ぼす宣言しちゃダメだから!」

「じゃあ、ほら」


 意地悪い笑みをしているルドルフ。

 私はため息をつきながら手を繋いだ。


 子供の頃から何度も繋いできたけど、最近はゴツゴツとして男性の手になった。


 なんだか意識しちゃうから、あまり繋ぎたくはないんだけど……。


「これで世界を滅ぼしちゃダメだからね」

「もちろん。それに冗談だからね」


 隣を歩くルドルフは、機嫌が良さそうに笑った。

 私も釣られて笑みを浮かべて、私達は魔法学園へと向かった。


 主人公が来て、原作が始まる。


 でもルドルフが絶対にラスボスにならないように、頑張らないとね。



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― 新着の感想 ―
[一言] 魔道具の開発物とか好きだから連載版が欲しいなと思いました。
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