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3.武器


《喰われる》



バケモノの牙が眼前まで迫った。リタが最期を悟った刹那、バケモノが急に遠ざかった。


「!?」


バケモノの姿は空に遠ざかる、よくよく見るとヘビのバケモノを掴む、黒い鳥の姿。


「カラスとヘビの戦いってか…?」


ヘビは噛みつこうとカラスを狙い、カラスも噛みつかれまいと嘴で応戦する。空で繰り広げられる無惨な戦いを見て、リタは今しかないと思った。


「動け…今動かねぇと…死ぬぞ、俺…!!」


残った右腕で起き上がり、ふらふらと立ち上がった。休む暇もなく、急いで足を進める。左肩から流れる血を抑えながら、逃げ失せた。



…しばらく歩いただろうか、先ほどの場所からはかなり離れているが、まだ空中でのヘビとカラスの喰らい合いは続いているらしい。


「…バケモノが」


リタは膝から崩れ落ちた。もう安全だ、と無意識下に思ってしまったのか、限界を迎えた身体は動くことを許さない。まだ血は止まらない。右手を見てみれば、手は真っ黒に染まっていた。血は黒い、当たり前のようで、どこか違和感が湧いてくる。リタは座り込んで空を見上げた。赤く、黒く、暗く、濁り切った空だ。それ以上でも、以下でもない。それでも時々頭にフラッシュバックする青はなんだろうか。


逃げる時から、いや、自分がリタと気づいた頃からだ、この違和感の数々は。


空は青く、人間がたくさんいて、明るい。


どこか今と似ている風景だが、記憶の中の風景にこんな混沌は存在していなかった。なぜこんな記憶が?いや、そもほもなぜリタに、


「…記憶って、なんだ?」


キオク、という言葉をリタは知らない。でも、知っている。記憶に懐かしさすら感じている。これはリタの記憶なのだろうか?見た記憶も、聞いた記憶も、体験した記憶もない。それでもリタの頭には確かに美しい景色の記憶が残っている。


「くっそ…わかんねえよ…なんでこう余計なコトばっか…はぁ…」


リタは頭をかいた。わからないことは、わからないもので済ませておけばいいのだ。

空をぼけーっと眺めているリタを引き戻したのは、バケモノの気配だった。


「!!…なんだ、誰だよ」


先ほどのヘビやカラスほどの威圧感は感じない。リタは確かにバケモノの気配を感じる物陰を睨みつけた。

しばらく見ていれば、物陰からイヌ形を模したバケモノが出てきた。3、4匹はいるだろう。奴らは口であろう場所から涎を垂らしている。


「はっ…いい餌ってか?」


イヌが飛びかかってくる。リタは体を翻し、必死で避けた。相手の爪は鋭く、口はさけ、今のリタなら受ければ致命傷だろう。


「ヘビならまだしも、イヌに喰われるのは癪すぎる…!」


飛びかかってくるイヌを避ける。しかし、相手も馬鹿ではない。数の有利を活かし、リタを取り囲んだ。


「全員で飛び掛かるか?ハッ、ぶっ飛ばしてやらぁ!」


リタは拳を構えた。彼の言葉を皮切りに、奴らは一斉に襲いかかる。


「おらぁ!!…お前らに喰われて、たまるかよ!!」


素手で相手を殴り飛ばしていくが、後退させることはできても、素手でバケモノを倒せるほどリタは強くない。また、倒しきれない敵と長く戦っていられるほど、リタはタフでもない。


「っはぁ…っはぁ…」


バケモノ達は、待っていましたと言わんばかりに構えた。リタの方を強く睨みながら、小刻みに体を震わせる。リタが疑問に思っていると、相手の背中から触手を生やした。黒く、ウジャウジャとイヌの背中で蠢いている。


「!!」


リタが危険を感じた頃には遅かった。刹那、リタの体に触手が突き刺さる。リタは勢いに耐えられず、後ろの壁に叩きつけられ、肩を貫かれた。


「ぐぅっ…」


腕がある方の肩を貫かれ、身動きはできない。イヌ達はリタの元へ近寄り、足に噛み付いた。牙が肉に食い込み、裂き、骨を砕く。


「ぐあぁあ!!」


足の肉を引きちぎられると、見えなくともだらだらを血を垂らしていることは分かる。バケモノ達は集まり、リタの下半身を喰い漁り始めた。バキバキ、と生々しい音が頭で響く。


「まだ……死にたくねぇ…死なねぇ…」


リタは身を捩らせるしかできなかった。どうにか、どうにかこの触手から逃れる術はないか、武器はないか、俺に力はないか。リタは考えて、考えて、考えて


「(俺にも…あの触手があれば…)」


そう思った。


「(そうだよ…俺にもあればいいんだ…あの触手が、武器が!!)」


リタは背中に意識を集中させた。自分にも武器があると信じて疑わず。武器を、武器を、武器を、と呼び続けた。脚を喰われながらも、背中に意識を集中する。


すると、背中に違和感を感じた。内側から込み上げてくるような、殻を破りたがる雛のような。


「(俺にも…武器を……バケモノどもと戦える、武器を!!!)」


次の瞬間、リタの背後にあった壁が砕け散った。先程までリタを喰らっていたバケモノ達は慌てて距離を取る。


「フゥーーーッ…」


リタの背中には、2本の鉤爪のような触手が生えていた。相手のよりも、太く、硬く、鋭く、血い。触手はリタの肩に刺さっていたものを取り払った。そして、バケモノ達に面と向かった。




「…俺の武器だ…来いよ犬っころども」






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