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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

私は……

作者: 雄太

 

「わ、私は……」


 硬く冷たい大理石が敷き詰められた豪勢な床が血で赤く染まる。今もなお、彼の身体の至る所に付けられた刀傷から血が流れ、大理石を侵食する。


「兄さん……」


 床に倒れた男と瓜二つの顔をした、彼よりも少し若い男は、彼の左側に座り込み、彼の手を掴み、大粒の涙を血の上に流す。


 兄さんと呼ばれた彼は血で濡れた手でその男の頬を撫でる。力無く持ち上げられた手のひらは冷え始め、命の灯火が失われ始めていることを実感させる。


「……アスラ、お前は何一つ悪くない。……仕事を全うした、だけだ。この道を選んだ時に……いつか、こうなる事はわかっていたはずだ、だから、そ、そんな顔をするな、」


 息も途絶え途絶えとなり、言葉すら満足に発せられない状態である彼はその身体に残っている全てを燃やし、声を出した。


 頬に添えられた手がゆっくりと重力に引きずられるようにして落ちる。


「兄さん!」


 既に目も見えてない彼だが、アスラの声は確実に耳に入った。


 アスラが無意識のうちに掴んでいた兄の手が、ゆすりと抜けるようにドンと言う力ない音を立てた。



『アスラ! 殺した奴なんか捨ておけ!』


 誰かの声が聞こえる。



『国王陛下を御守りしろッ!!』

『陛下! 早く地下通路へ! 私たちが1秒でも時間を稼ぎます』


 国王と思われる老人が玉座の裏に隠された真っ暗な通路に近衛隊の手によって押し込まれる。



 最後の生き残りである近衛隊の一部は国王と共に闇の奥へと姿を消し、玉間に残った者は隠し通路へ繋がる道へ火が付いた爆弾を投げ入れる。導火線の長さから察するに爆発するまでの猶予は30秒程度。


 近衛隊は反乱軍と思われる身内に刃を向ける。だがしかし彼らの目の前に立つ身長2mを優に超える大男は退くことはく一歩、足を踏み出す。


 この間にも反乱軍が続々と玉間へと雪崩れ込み、数的有位をより固いものにする。

 最後に残された近衛隊員は5名、彼らの運命は既に決まっているが、大男に怯むことなく槍を突き出す。


『そこを退け!』


 陸軍総司令カイロスは近衛隊の槍の10cmほど前まで迫る。

 少し槍を押し込めばカイロスの腹を破る事が出来るという位置関係だが、近衛隊は動かない、いや動けない。

 もし、近衛隊員が筋肉をぴくりとも動かしたら槍がカイロスの腹を突き破る前に、5人の首が飛ぶと理解していた。


『どうした? その爆弾、あと10秒もしないうちに、爆発するのだろう。そうしたら間違いなくお前たちは吹き飛ぶ。俺は生き残るがな、爆弾の量と玉座、そしてお前たち肉の壁によってここまで破片が飛んでくるとは思えない。どうする? 潔く俺に殺されるか、爆弾で吹っ飛ぶか、残り5秒もない』


 俺は何もしない、そう言いたげに身長より少し短い矛の刃を反転させた。


 その瞬間タイミングを測ったかのように動き出した4人の首無しの身体が前へと進み、カイロスを素通りし床に崩れた。


「実戦を知らない内地の兵は弱いな」


 カイロスは胴体の鎧に少し食い込んだ槍を素手で抜き、最後に残しておいた近衛兵の脳天に持ち手の部分を突き刺した。



 5秒以上既に経過していると言うのに壁の奥に投げ込まれた爆弾が爆発する気配がない。



 反乱軍の一部がソワソワとざわめき出す。カイロスは隠し通路に爆弾を投げ込んだ近衛隊員に近づくと「よくやった」と声をかける。その直後硬く閉められたはずの隠し通路への扉が内側から開かれ、切断された首が剣の先にまるで焼き鳥の肉のように刺され、玉間へ突き出された。


 その首はまだ少しだけ生きているのか目が動く。





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