表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
牛と旅する魔王と少女~魔王は少女を王にするために楽しく旅をします~  作者: 雪野湯
第七章 囚われ、凌辱される少女……少女?
67/85

第67話 教会騎士シュルマは影を踏む

――――アルラたちが出立し、二日後・東方文化が根付く西方最後の町『ひやおろし』



 異端廓清(かくせい)専門である星天騎士団団長・教会騎士シュルマはカリンたちを追って、ひやおろしへ訪れていた。

 彼女はひやおろしの代表を務めるユウガの邸宅へ訪れ、畳が並ぶ広間で膝折り、ユウガにカリンたち一行について問うが、彼の返事は要領を得ない。



「もう一度、お尋ねします。牛を引き連れた集団、太めの男と冒険者風の女に幼い少女。そして、賞金稼ぎのツキフネとスラーシュの領主の三女ラフィリアがここへ訪れたのですね」

「そうだ、ヤエイを失った……」

「そのヤエイなる者を連れ去ったのですか?」

「ああ、ヤエイ、ヤエイや。どうして!? 私はこんなにもお前のことを愛しているのに!! お前から受けた傷すら愛しいというのに! どうして、どうして、どうしてだ!?」


 彼はヤエイによって握り潰された左手に右手を添えて、爪を立て掻き毟る。

 怒りと恍惚と愛おしさが交わる複雑な表情を見せて、がりがりと、がりがりと皮膚を破り、肉が捲り上がり、血が滴り落ちようとも掻き毟るのを止めない。

 それを女中たちがやめさせようとするが、彼は癇癪を起こし、畳の上でのたうち回る。


「ああああああ!! 何故だ、ヤエイ!! 約束したではないか!? 私の妻になると!? 私は約束通り懸命に働き、財を成して、お前を迎えに来たというのに!!」


 ユウガは半狂乱状態となり、もはや話などできる状況ではない。

 シュルマは使用人を呼び、ユウガを下がらせた。

 広々とした畳の()に一人残るシュルマは、出された緑茶を啜る。


「ふ~、使用人の話では彼らが訪れて以降、乱心したと聞いていましたが、それでも落ち着いているときはまともだと言っていました……タイミングが悪かったようですね。これではまともに話を聞けない。それにしても――」


 彼女はスンスンと鼻を鳴らす。

催淫薬(さいいんやく)の香りが屋敷内に満ちている。屋敷の隅には封印の力の痕跡。そしてヤエイという名前。名の響きからナディラ族? ユウガ、あなたはナディラ族を閉じ込めて(もてあそ)んでいたようですね。ですが、彼女たちは高潔な魂を求める種族。ユウガの魂は受け入れられなかった。そんなところでしょう」



 茶を盆の上に戻し、嘆息も漏らす。

「ま、当然でしょうね。おそらく、この催淫薬はご禁制の品。財を成したと言っていましたが、それは薄汚れた商売によってのもの。これではナディラ族に受け入れられるはずもない」

 そう言葉を置いて、開かれた障子の向こうにある中庭を見つめる。


「東方式の庭。豪勢ですねぇ。さぞかしあくどく儲けていたのでしょう……だから、受け入れられず、ナディラ族を閉じ込め、それを影の民の少女が救った? 旅の途中で何かしらの救いの手を差し伸べる影の民。その者が向かうは西。ここより先は呪われた大地。さらに先にあるのは、まほろば峡谷……そこが目的地?」


 シュルマは音もなく立ち上がり、西へ顔を向けた。

「旅立ったのは二日前。私の足でしたら、一両日中に追いつくことができます。捕え、何を企んでいるか吐かせるとしましょう。内容いかんによっては……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ