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第50話 魔法対決

 ラフィは漆黒の大槌(おおづち)を振るい、地面へ叩きつけると、全身に紫紺の魔力を纏う。

 それに父ユングナーは歯肉を剥き出しに怒りを見せた。


「この、痴れ者が!!」

 

 そう吠えて、彼もまた紫紺の魔力を全身に纏う。

 彼の魔力の発動を見た他の魔法使いたちもまた、魔導杖(まどうじょう)に淡い青色の魔力を籠め始めた。



 吸い込まれるような青の空に、一筆(ひとふで)の紫を走らせる二人。

 しかし、ラフィの筆は細く、ユングナーの溢れんばかりの魔力の前では見劣りをする。


 父との差を前にして、ラフィは歯ぎしりを奏でた。


「ぎぎっ、さすがはお父様……ですが、この意地! 突き通してみせます!!」

「お前がこれほど愚かだったとは。私とお前では天と地の実力差よ。できるだけ傷つけることなく終わらせてやろう。これは親の情けとして受け止めろ!」


 さらに魔力を高め、紫の煌めきは螺旋を描く。



 いくらラフィに才あれど、魔法学園に通う魔法使いの卵では敵う相手ではない。

 (ゆえ)に……。


「私が力を貸そう」

 私はラフィの背後に立ち、魔力を高め、助力を与えることにした。

 彼女は顔を正面に向けたまま、小さく瞳をこちらへ動かす。


「お気持ちはありがたいですが、これはわたくしと父の問題。ですから……」

「私とて親子喧嘩に口など出したくはない。だが、彼の真の狙いはカリンだ。よって、無関係を気取るわけにはいかない」


「それは…………わかりました。御助力お借りします。ですが、あなたの魔法は旧魔法であるため父には」

「安心しろ、考えがある。ツキフネ! 貫太郎! カリン! 手出しは無用。君たちは後方に下がり、リディを守ってくれ!!」


 名を呼ばれた貫太郎とツキフネは重厚な返事をする。


「ぶも」

「おう」


 一方、カリンは不満の声を上げた。

「私たちも!!」

「カリンは魔法に明るいのか?」

「いえ、全然」

「ならば、ここは私たちだけに任せておけ。リディの方は任せたぞ」

「……うん、わかった。気をつけてね」



 彼女は自身の不甲斐なさを呪いつつも大人しく下がった。

 私は意識をラフィとユングナーへ向ける。


「さて、私の魔法では簡単にかき消されてしまう。だが、魔力量には自信がある。その魔力を君の魔力と同調して貸与(たいよ)しよう」


「同調? それは不可能です! 他者の魔力と同調するためには互いの魔力周波数を完璧に――」

「よし、合わせたぞ」

「へ? そ、そんな……こんなにあっさり同調―――――えっ!?」



 ラフィはこちらへ振るえる瞳を向ける。

(な、なんですか、この魔力値は……? わたくしとでは比べ物にならないくらい濃く、重い。このような魔力、お父様でさえ……この世界にこれほどの力を持つ者がいたとしたら――――魔王……本当にこの方は!?)


「ラフィ、戦闘に集中しろ」

「え、はい!」

「君の身体に負担が掛からない程度に魔力を流し込む。あとは好きに使え。以上だ」

「わかりましたわ!!」


 ラフィは大槌の柄頭(つかがしら)を地面に叩き落として突き刺し、舗装されたレンガの道にひびを入れる。

 そして、彼女は、魔法を振るう。



氷槍穿孔(ワランバラフ)! 風剣馘(シーフダバイシャ)! 焔矢(フラウダブ)! 雷核爆砕(シューダンテ)!」


 私たちの前に無数の氷の槍・風の剣・炎の矢・雷の力を帯びてバチバチと音を跳ねる球体が現れる。

 さらに、私と自身を包み込む淡い青色の結界まで張った。


 私はこれらを目にして感心交じりの声を産む。

「ほ~、五つの魔法を同時に操るか。並みの魔法使いであれば二種の魔法を操るだけで負荷に耐えられず、脳か体を痛めるものだが。(たぐ)いまれなる才の持ち主だな、君は」


「お褒めに預かり恐縮ですわ。ですが、あなたの魔力があってこその。あなたと同調しているからこそわかります。わたくしにとっては膨大な魔力であっても、あなたにとっては表層に触れた程度……底なき魔力に、敬意と恐怖を抱いてますわよ」

「フフ、こちらこそ恐縮だ。しかし、やはりと言うか、術式が複雑化しているな。これは覚え直すのが大変そうだ。ま、愚痴はさておき――どうする、ユングナー?」



 私は黄金の瞳を光らせて、彼の紫色の瞳を覗き見た。

 ユングナーは予想だにしなかった出来事を前に体全身を震わせている。

(ば、馬鹿な! なんだ、このふざけた魔力は!? この男、一体? ……おのれ、これでは――!)


 彼は人差し指にはめた魔石を振るう。すると指輪は変化(へんげ)し、先端に紫の魔石がついた魔導杖(まどうじょう)を産み出した。そして、部下たちにこう命じた。

「全員下がれ!」

「ユングナー様!?」

「もはや、安全に拘束というのは不可能のようだ。あれを前には、大魔法使いと呼ばれた私も本気にならざるを得ない。お前たちは後方へ下がり、住民に害が及ばぬよう努めよ」

「はっ、了解しました!!」



 部下たちが指示に従い、後方へ下がり、野次馬となっている住民たちの前に結界を張る。

 皆は私たちを中心に置いて、円を描くように離れて見ている。

 父の魔導杖(まどうじょう)を見たラフィが小声で呟く。


「困りましたわね、私の魔石であるこの大槌(おおづち)もグバナイト家の所有物であり、民の物でした。お返しするべきでしょうか?」

「貰っておけ。いや、奪っておけ」

「え?」

「君は貴族を止めたのだろう? ならば、今日からは盗賊になると言い。これならば、奪っても問題ない」

「ふふ、なんて屁理屈を。ですが、採用いたします」

「ほほ~、柔軟な子だ。では、盛大に喧嘩をおっぱじめるといい!」

「言われなくても……やってやりますよ!」



 氷・風・火・雷の四種の魔法がユングナーへ襲い掛かった。

 彼は杖を振るい、爆轟(ばくごう)の魔法を唱える。


「爆轟魔法デトナシア=ディミッド」


 あれは魔都ティーヴォにて、私が勇者ナリシスに放った魔法。空気を集約してそこへ熱を投じ、周囲を炎と衝撃波で消し飛ばす爆轟魔法。その、最新版のようだ。


 爆轟魔法は四種の魔法の前で爆発を起こして、全てを吹き飛ばした。

 土煙が舞う中で、ユングナーは杖を片手に油断なくこちらを睨みつける。


「魔力量には驚かされるが、それも使い手が未熟では宝の持ち腐れのようだな」


「なんですって!?」

「落ち着け、ラフィ。こちらも遠慮なく上位魔法を唱え続けろ。私の魔力のことなど気にするな」

「ええ、そうさせてもらいます!」


 ラフィは光を収束させ、これを線として放つ。

 それに対して、ユングナーは空間を振動させて線に乱れを生じさせ、結界で受け止めた。

 そしてお返しとばかりに巨大な水流を産み出し、私たちを溺れさせんと水牢へ封じようとするが、ラフィは風の魔法を螺旋に描き、これを水飛沫(みずしぶき)として地面へ落とす。


 二人は一歩も動かずに次から次へと魔法を唱え合う。

 瞳を白に染める閃光・耳奥に痛みを与える雷鳴・突き刺す痛みを皮膚へ伝える寒風・鼓動を止める衝撃波。


 ありとあらゆる種類の魔法という魔法がぶつかり合い、空は黒煙に染まり、地は抉り取れ、大気は絶え間ない衝撃に鳴動する。

 その衝撃は人々を守っている結界にヒビという名の悲鳴を走らせる。

 

 衝撃波と粉塵からリディを守っている貫太郎とカリンとツキフネが言葉を零れ落とす。

「も~……」

「す、すっごい。こんな魔法対決、見たことない……」

「アルラの助力を得ているとはいえ、ラフィという娘、やるな」



 巻き上がった粉塵は視界を奪うが、ラフィもユングナーも互いの魔力を探知し合い、見えぬ視界を見通す。

 ここまで互いに、攻防は互角。

 しかし、魔力量ではラフィ……正確に言えば、私の方が有利だ。



 ユングナーの魔力に陰りが見え始める……だが――。

(一見、趨勢(すうせい)はラフィに傾いているように見えるが……さすがは魔導都市スラーシュを預かる領主。魔導を操る者としても一流だが、老獪さもまた一流)



 ラフィは父の魔力の衰えを察知して、攻撃に畳み掛けている。

 その父であるユングナーは防御に手一杯……と、見せかけて、魔法たちが飛び交い、弾け消え、魔力片が漂う大気の中に自身の魔力を隠して、新たな魔法を()っていた。


 私は魔力片に隠れた魔法を覗き見る。

(あれを探知するのはかなり難しい。ラフィでは経験が薄いため、まず見破れない。あれが発動すると、巨大な電撃がこちらの結界を打ち破り、ラフィを蹂躙し、気を失う。そうなると、同調している私も相当痛い目に遭うことになるな。それは御免(こうむ)る)


 私は攻撃に集中しているラフィへ声をかけた。

「ラフィ、ちょっといいかな?」

「良くないですよ! あと少しでお父様を!」

「そのことだが実は………………ということなんだが」

「そんなはずは? わたくしには何も感じ取れませんよ?」


「そこは私を信じて欲しい。そこでだ――――――こうするのはどうかな?」

「――――っ!? できるのですか? そのようなことが?」

「やれるから言っている。この魔法ならば、術式はさほど問題ないしな」

「たしかにそうでしょうが……」


「できれば、賛同して欲しい。親子喧嘩の詰めに口出して申し訳ないと思うが、私も痺れるのは嫌でな。頼み、聞いてくれるか?」

「……思うところはありますが、本当にそのようなことができるならば、一魔法使いとして(おこな)ってみたいという思いもあります。ですから、お願いします!」


「フフ、そうか。では、君は攻撃を与えつつ、私が唱える詠唱を復唱しろ。魔力の調整はこちらで行うから君への身体の負担はない。だから、気にするな」

「ええ!」


 私たちはユングナーの耳に届かぬように、小さな声で少々難解な魔法を唱え始めた。



「「そこに()って(あら)ざる翼よ、瞳に映らざる道を――――」」



 ラフィは詠唱に気を取られ、攻撃が単調になる。

 ユングナーはそれを見逃さなかった。


「終わりだ、ラフィ。天原を疾駆する稲妻ヒルアーク・デ・サマラ!!」


 突如、空中を漂っていた魔力片が新たな魔法として生まれ変わり、巨大な稲光を走らせた。

 それはラフィの結界を穿ち、彼女の全身を貫いて、細胞の一つ一つにまで痺れを届けるだろう――だが、こちらもすでに詠唱を終えている!!


「ラフィ!」

短距離転移(マフォ=メタシス)!!」


 彼女の声に応え、稲光の前に黒の穴が生まれた。

 稲光はその穴に吸い込まれ、それとほぼ時を同じくして閃光がユングナーの頭上に落ちた!


「こ、これは!? ――がぁぁあぁあぁぁあ!!」


 鼓膜を(つんざ)く凄まじい悲鳴と雷鳴が混じり合う。

 雷鳴は瞳を焼く光を産んで、私たちと周囲の人々の視界を一時奪った。


 数秒経ち、焼けた瞳に視界が戻ると……そこには服が焦げ、ぼろぼろとなり、黒煙を纏うユングナーがいた。

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